翼が、欲しい。
逢いたい人が、いるから。
今、私の背中に翼が生えたら。
そうしたら、その翼をゆっくりと動かし、私は空へ行く。
逢いたい人が、いるから。
夕也の死は、あまりにも突然だった。
交通事故で、あっさり。
日曜日、横断歩道を渡っていたら居眠り運転の車が突っ込んできて。即死...
日日是悪日
翼が、欲しい。
逢いたい人が、いるから。
今、私の背中に翼が生えたら。
そうしたら、その翼をゆっくりと動かし、私は空へ行く。
逢いたい人が、いるから。
夕也の死は、あまりにも突然だった。
交通事故で、あっさり。
日曜日、横断歩道を渡っていたら居眠り運転の車が突っ込んできて。即死...
「大丈夫? 」
あの日差し出された掌は、確かに温かかった。
「咲江。お弁当食べよ」
赤いバンダナで包まれたお弁当を掲げながら、美唯(みゆい)はあたしに近づいてきた。
あたしは「うん」と短く返事をし、今朝コンビニで買ったメロンパンを机に下げたカバンから取り出す。
その間に、美...
あの日起きた、少年二人組による殺人事件。
その犯人の目撃者となった日から、生れ堕ちた悪夢は彼をひどく悩ませた。
毎日のように付きまとう二つの黒い影。
かすかに聞こえる、自分へのものと思われる小声で交わされる会話。
それらに彼は、今にでも呑み込まれそうだった。
かつ、かつ、かつ……
重...
見上げた人工の星空はひどく澄んでいた。一緒に彼と天体観測をした日だって、こんなにはっきりと星は見えなかったはず。それが少し悲しかった。私の思い出よりも、美しい夜空なんて。点滅を繰り返し頭上に広がる夏のちいさな星屑たちは、今のわたしの眼には眩しすぎた。
「ほら、あれが夏の大三角形だよ――――」...
どうしよう、どうしようどうしよう!
机に向かい項垂れながら、私は心の中で何度もこの言葉を繰り返した。
何度も繰り返し、自問自答して、そして最終結論は「落ち着いて状況整理をする」になったので椅子に姿勢正しく座り直した。
えーと、今の日付は八月二十五日。
受験生、水沢葉月(十五)にとって...