Nicotto Town


しだれ桜❧


 

刻の流れー87 (2)

石橋は、少し考えてから、
「わざわざ、関西までお越しになったのですから、芦屋の庄司殿をお尋ねになってはいかがでしょう。」
石橋の言う庄司は数年前に一線を退いた代議士である。元は東京に住み、倶楽部の客であった。一線を退いた今でも、政治にかなりの影響力のある人物だ。
「庄司殿が芦屋に?」
「神戸の店も贔...

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刻の流れー87 (1)

丁度その頃、ホールを挟んだ別の小部屋のカーテンの向こうで、石橋は勝見議員と密談をしていた。勝見議員が米国第3海兵遠征軍司令官ロバート・シュルツをラ・パルフェ・タムールへ接待したいと申し入れてきたのだ。これは折からシュルツに渡りをつけようと策を練っていた石橋にとっては願ってもないことであった。常より担...

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刻の流れー86

その夜エレベーターホールで黒のタキシードに身を包んだ梶が勝見議員を迎えていた。
「いらっしゃいませ、勝見様。」
「出迎えご苦労。」
勝見議員の声は特徴がある。通りのいいテノールで演説向きだ。
「お部屋へご案内いたします。」
勝見議員は、うむ、とうなずいてから梶の耳元へ小声で話しかけた。
「あの娘の手...

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刻の流れー85

「梶さんがぴりぴりしてるわ。」興津に変わって給仕をするため、タキシードに身を包み店に下りてきた要を見かけた桜が耳打ちをした。その夜の桜は赤いイブニングドレスにダイヤのチョーカー。髪を大人っぽくアップにしているのでとても10代には見えない。美女揃いの店のコンパニオン達の中でも、桜の美しさは目を引くよう...

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刻の流れー84

アキラの心配を他所に、要はなかなかうまく医院内をうろつき、犬飼の存在を内外にアピールしてくれたようだった。その要が4時過ぎに帰ってしまうと、アキラは病室に残って一人二役に精を出した。6時過ぎに誰かが病室のドアをノックした。アキラは窓に寄ってブラインドをきっちりと閉めなおしてからドアへ近づく。「YZR...

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