自作小説倶楽部9月投稿
- カテゴリ: 自作小説
- 2019/09/30 21:00:27
『彼女が美しかった頃』
高校の時の古典の教師は山ババアと女生徒たちに呼ばれていた。苗字は山本か山田で、下の名前も「子」が付く地味なものだったと思う。覚える気もなかったから忘れてしまった。当時の年齢は30代だと聞いたが、10代の私たちにとっては遠い未来の年齢だった。外見もチビで小太り、肩の少し上で切...
『彼女が美しかった頃』
高校の時の古典の教師は山ババアと女生徒たちに呼ばれていた。苗字は山本か山田で、下の名前も「子」が付く地味なものだったと思う。覚える気もなかったから忘れてしまった。当時の年齢は30代だと聞いたが、10代の私たちにとっては遠い未来の年齢だった。外見もチビで小太り、肩の少し上で切...
カブトムシの森 コツン、と音がして千佳子は目を覚ました。玄関のドアを見るが、しん、と静まり返って動く気配は無い。少しして、それがベランダのガラス戸に何かが当たった音だと気か付いた。鍵を外して戸を引くと、夜風が千佳子の頬をなで、遠くで車のクラクション音が響いた。
ベランダには黒いゴミ袋がでこぼこ...
『雨を呼ぶ殺人者』
〈証言1〉 いやあ、ひどい雨だねえ。大外れだ。気象庁は何をしているんだろうね。お役所でもおたくらとはえらい違いだろうねえ。で、俺に何を聞きたいんだ?
事件のすぐ後に根ほり葉ほり聞かれたからもうネタ切れだよ。え? マスコミの取材に答えたこと? あの男の子がナイフを握って...
『理想の家』
すっかり疎遠だった伯父から家を相続するなんて晴天の霹靂でしたよ。でも私は仕事を定年退職して暇をもて余していて、さらに住んでいたアパートが老朽化のために取り壊されることになった時だったから渡りに船で引っ越すことにしました。下見してみて庭があるのと階段の踊り場から一階を一望出来るの...
『赤い蝶』
伯父に初めて会ったのは私が二十歳になった一月後でした。私の懇願に対しての返答が「この屋敷で働かせてやろう」でしたから印象は最悪でした。しかし両親が借金を残して他界した天蓋孤独の身では伯父を頼らざるおえませんでした。母が駆け落ちして実家を勘当されたことも弱味でした。母を勘当したのは私の祖...
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