事故で未来へ飛ばされてしまった萌絵はコーチスという何かを体内に埋め込まれて現代に戻ってきた。
各機関が研究し、それが『触れた人間の細胞を硬質化し、生命活動を停止させる細菌兵器』であると解明した時には既に遅く、伝染性のあるコーチスは研究者とその家族を発端に世界に蔓延しはじめていた。
けれど萌絵だけは...
ぺんぎんの飼育法とかうどんの通販をやってるワケじゃありません
事故で未来へ飛ばされてしまった萌絵はコーチスという何かを体内に埋め込まれて現代に戻ってきた。
各機関が研究し、それが『触れた人間の細胞を硬質化し、生命活動を停止させる細菌兵器』であると解明した時には既に遅く、伝染性のあるコーチスは研究者とその家族を発端に世界に蔓延しはじめていた。
けれど萌絵だけは...
「女房は空気だって、あの人言っていたわ」
女からの突然の電話に早苗は「はぁそうですか」と気の抜けた返事をする。
本当なら律儀に相手をする謂れは無いのだけれど、どんな気持ちで電話をかけてきたのかを思うと無碍にも出来ない。
「今夜もあの人、遅いわよ。ごめんなさいね奥様」
少しキーの高い声が淫靡に笑...
大学の裏門を飾る楡の木の下で、秀はぼんやりと座っていた。まだ葉の揃いきらない大木は春の陽射しを容赦なく降り注ぐ。
ちょうどいい日光浴だな……そんな事を考えているさ中にゼミの友達から声をかけられた。
「秀、美佐ちゃんが田村と駐車場に歩いてったぞ」
「…&h...
洞の入り口に、どんよりと差し込んでいた陽射しが、暗い重さを増してきた。その頼りない夕暮れに誘われて、妹は洞を出た。
重く積った雪が小さな長靴に踏まれて、きゅっと鳴く。
妹は天を仰いで、はぁっと白い息を吐いた。
今日も妹は、星を探す。
僕は妹の肩をぎゅっと抱き寄せて
「寒いよ、中に入ろう」と...
「あぁびっくりした」
薄桃色の花を一輪携え、縁側から戻ってきた香に
「何をびっくりしたの」
多恵子は布団の中から首だけ横に向けくすくすと笑いながら尋ねた。
「椿の花が咲き出したから飾ろうと思って摘んだら、蜜蜂が飛び出てきたのよ」
香は、和室の隅に置かれた仏壇のシキビの花瓶に、笑いながら椿を添え...