おすがり地蔵尊秘話(15)
- カテゴリ: 自作小説
- 2018/02/19 12:12:56
「あなた。出ていくって、本当なの。」
久しぶりに私は妻の声を聴いた。声が喉に詰まっているのか、他人が遠くで話しているように思えた。
「ああ。お前も、なんだ。優子の家におれば、気を遣うだろうから。しばらくの間でいいから、別居するのがいいと思ってさ。適当な家を駅前の不動産屋が紹介してくれたものだから、...
「あなた。出ていくって、本当なの。」
久しぶりに私は妻の声を聴いた。声が喉に詰まっているのか、他人が遠くで話しているように思えた。
「ああ。お前も、なんだ。優子の家におれば、気を遣うだろうから。しばらくの間でいいから、別居するのがいいと思ってさ。適当な家を駅前の不動産屋が紹介してくれたものだから、...
下見した物件の内容が自分が想定していたものと近似値であったことで私は安心感をもった。ここなら、じっくりと今まで構想してきた小説を完成させられるかもしれない。今、決断して実行しなければ、もう、何もできないかもしれない。周囲がどんな非難をしようが、この際、思い切って、妻の秀子と別居して創作活動に専念し...
老婆は鍵を取りに奥に引っ込むと、「それではご案内させていただきます。」と縁側から降りた。屋敷の横は畑になっていたが、軽自動車が走れるくらいの、小道がついていた。約15秒ほど歩いたであろうか、外観は納屋のような建物であった。一応、玄関らしい木製のドアがあって、鍵が掛っていた。錆びついた金属音がして、...
例の毒を科学する本のことから始まった妻との喧嘩。娘の家に行ったきりで秀子が帰ってこないこと、先日、娘の夫である前島健太がやって来て、妻の秀子が精神的に不安定になって離婚したいと言ったことなどを詳らかに説明した。「あんた。それは普通の夫婦喧嘩ですがな、なにも心配することいりません。私の亭主は5年前に...
老婆と言っては言い過ぎかもしれない。農作業で鍛えた足腰で十歩ほど歩いて座敷の縁側のガラス戸を音たてて、開けたかと思うと、さっと草履を脱ぐと、座敷に上がり込んで座布団を二枚並べた。
「ちょっと、お茶でもご用意いたします。」
こう言って、奥へ消えてしまった。
「直ぐに案内してもらえると、思っていまし...