Nicotto Town


しだれ桜❧


 

刻の流れー62

興津がすぐに手術を受け、短期だが入院する事になったので、原田は要を連絡係として残し、自分は一旦店に戻っていった。興津の部屋に入ると
「まったく世話の焼けるおっさんだ」
と、一人ゴチながらタンスをあけて着替えと洗面道具その他諸々を引っ張り出し紙袋に纏め上げる。そこへ梶が入ってきた。
「どんな具合だ?」...

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刻の流れー60

倶楽部在籍の頃からやり手と言われてきた石橋は、少数先鋭の部下たちに支えられ、横浜の倶楽部とも連携しつつ、ラ・パルフェ・タムールを関西の紳士クラブとして成功させてきた。18年の長きにわたって三代目田中が神戸を後押しするのは、横浜の利益になるからだという事を石橋は重々承知していた。それゆえ、自分をいつま...

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刻の流れー59

18年前、石橋と神戸に来るまでは、梶もまた紐育倶楽部で働いていた。無表情でつかみ所が無いが、何をさせても如才なくこなす。何事も冷静に理論立てて考える事の出来る男で、感性に優れ度胸も据わり物事に動じない。その力量に加え、ワイン、高級料理、チャイナ、美術品、装飾品などの広域にわたって詳しい知識を持つ彼は...

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刻の流れー58

三代目田中が支配人として采配を振るう紐育倶楽部には政治家、財界人たちからあらゆる情報がもたらされて来る。田中はそれらの情報を利用して政界、財界に圧力をかけ、巨額の富を得ていた。富だけではない、田中は時には政治家たちや、企業トップの決断の方向をそうとは知られず思いのままに変えることさえやってのける男だ...

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刻の流れー57

犬飼の運転するバンが高円寺の診療所に着いたのは9時を30分ほど回っていた。バックで玄関に乗り付ける。二人は帽子を目深にかぶり直し、外に出てきた。犬飼が素早く辺りに目を走らせると、いつもは見かけない黒っぽいセダンが蓮向かいの路肩に停められていた。シートが下げられているが、明らかに中に誰かいる。それだけ...

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