「契約の龍」(112)
- カテゴリ: 自作小説
- 2009/09/18 02:52:20
人垣の間を縫って、ようやく中心付近にたどり着く。さすがに中心には自然と空間ができている。人の肩越しに見える二人を見て、ふと既視感を覚える。その理由に思い当たったのと、向こうがこちらに気付いたのは、ほぼ同時だ。
王妃の方が、今応対している相手に軽く挨拶して、こちらへ向かってくる。正面から見ると、や...
ぶろぐ、の、ようなもの。
人垣の間を縫って、ようやく中心付近にたどり着く。さすがに中心には自然と空間ができている。人の肩越しに見える二人を見て、ふと既視感を覚える。その理由に思い当たったのと、向こうがこちらに気付いたのは、ほぼ同時だ。
王妃の方が、今応対している相手に軽く挨拶して、こちらへ向かってくる。正面から見ると、や...
「…では、お詫びのしるしに、一曲お相手いただけませんか?」
フレデリックがクリスの前にすっと手を差し出す。
そう来たか。
「それでお許しいただけるのでしたら」
ほっとしたような表情を浮かべ、クリスが右手をフレデリックに預ける。
「じゃあ、ちょっと借りるな」
と言ってフレデ...
あたしが生まれたのは、海の中。親兄弟の事は、覚えていない。
気がついた時には、海の中を泳ぎ回っていた。それはもう、自由自在に。
海の中では、あたしは怖いものなしだった。
だから、油断したんだと思う。
とある内海に入り込んでいた時、それは起こった。辺りが振動し、さすがのあたしもずいぶん揺さ...
俺たちの現在いる位置は、踊るために空けられたスペースよりわずかに外側なので、中央寄りに数歩進む。
クリスが優美な仕草でこちらへ向き直り、一礼する。あわててこちらもお辞儀。差し出された手をとって、所定の位置で組む。
「そんなにあわてなくても…まあいいか」
苦笑をそのまま微笑みに変...
「…やっぱり、何とかして欲しい?」
お替りのお茶を注ぎながらクリスが言う。カップが空になる前に注ぐ様子を見て、やっぱり親子だなあ、とぼんやり思う。
「それはもちろん」
せっかくクリスがめったに見られないドレスを――それも目にも眩しい深紅のを――着て、お茶をお給仕してくれていると...