仮想劇場『Jiro's恋歌』
- カテゴリ: 自作小説
- 2024/02/01 15:33:18
その部屋の押し入れが僕のお気に入りの居場所で 誰に媚びることなくいつも当たり前の顔で居座り侍り ときにはブツブツと想い患いのような詩を宣い ときにはワオワオと流行らない歌を掻き鳴らし過ごした キミに呼ばれれば尻尾を立ててたちまちに返事をする キミが許せば押し入れの戸を開け放ち、そこでとりとめの...
その部屋の押し入れが僕のお気に入りの居場所で 誰に媚びることなくいつも当たり前の顔で居座り侍り ときにはブツブツと想い患いのような詩を宣い ときにはワオワオと流行らない歌を掻き鳴らし過ごした キミに呼ばれれば尻尾を立ててたちまちに返事をする キミが許せば押し入れの戸を開け放ち、そこでとりとめの...
僕が『寂しい、』というとキミはちょっとだけハニかんで、ただ白いだけのノッペリとした部屋の壁に誰も描いたことのない女の子と男の子の絵を描いた。 それは誰と誰の事かねと僕が問いかけるとキミはまたハニかんで、『そんなの私が知るはずがないよね?』と僕を突き放す。二人の対話はいつもそんな感じで付かず離れず...
あの夜、空は突然モノクロームになって、僕の眼球から色彩の全てを奪ってしまった。それを境にあらゆる権利を剥奪され、この星の住人であることさえ赦されなくなる。
昨日まで同じスローガンを抱いて酌み交わした友も、今ではすっかり他人様となりはて、住み慣れたあの家も今ではもう知らない誰かの宿り木。
それ...
地べたに描かれた大きなふたつの赤い丸は勝利を確信したときの君なりのVサイン。すでに廃校になった繁華街内の中学校の校庭、そこに今更ながらにハッキリとわかりやすくスプレーされている。相変わらずの君のハッタリに僕はニタリとしたり顔。いつの時代でも君はやっぱり面白いやつだ。
あの日、あの時、僕が勝者に...
夜目川の河川敷を昨日の夕暮に旧知の友と二人で歩いた。実に30年ぶりの事だ。互いにあまり多くを語らなかったが、君の今がどういう状況であるのかはなんとなく察知できた。
夜目川はちょうど河川工事の最中のようで大型のダンプカーが2台、土手の上を土煙を上げながらこちらに向かい、そして僕らのスレスレをす...