自作小説倶楽部11月投稿
- カテゴリ: 自作小説
- 2023/11/30 21:08:03
『暗い道の先』
その店はまるで街の影の中に存在しているかのようだった。出張の帰路、列車は突然、通過予定だった駅に停まって動かなくなった。車掌の声で運転再開の見込みがないことを理解すると乗客たちは各々席を立ち開けっ放しの扉から列車を降りた。幸い、そこには大きな街があった。人の群れから離れて、私は明るい...
『暗い道の先』
その店はまるで街の影の中に存在しているかのようだった。出張の帰路、列車は突然、通過予定だった駅に停まって動かなくなった。車掌の声で運転再開の見込みがないことを理解すると乗客たちは各々席を立ち開けっ放しの扉から列車を降りた。幸い、そこには大きな街があった。人の群れから離れて、私は明るい...
『山小屋の事件』
泥沼をもがき、やっと浮かび上がったように目が覚める。男が重い瞼を開けると目の前に暗闇が迫っていた。小さくなった炎に気付き、慌てて手さぐりで木片を掴むと火に投げ込み、それから己が寝ていた床に手を這わせるとすぐに冷たい金属製の懐中電灯を掴むことが出来た。スイッチを入れかけたが囲炉裏で再...
『女王の微笑み』
勝負に勝つにはね。何の勝負でもそうだけど対戦相手をよく知ることだ。例えば、あそこのテーブルでカードを睨んでいる若い男は鉱山主の孫だ。息子に先立たれた鉱山主の爺さんは孫息子を溺愛した。そして成長した奴が不良と付き合っても放蕩を重ねても、哀れな爺さんは奴に金を渡し続けた。とてもそうは見...
『月光の下の約束』誰にも話したことのないわたしの秘密を話すわね。 悪いことじゃないわ。子供の頃の不思議な体験よ。 小さなころ、わたしはとても体の弱い子供だった。母が今でもリリーの風邪に神経質になるのはそのせいよ。幼いわたしは常にベッドの住人で、母が悲しむとわかっていたから言わなかったけど、死んだ...
『暗闇の声』「おやめなさい」声に思わずドライバーを握る手を止めた。 ただの老いぼれの声だ。とわかっていても後ろを振り向く気にはなれない。男の、弱弱しいがいやに暗闇に響く声だった。 同時にこんな声をしていたのかとも気付く。初めて会ったのは30年近く前、俺が伯父に引き取られた6歳の頃だがまともに言葉...
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