7月期小題 「海岸/大とぐろ」
- カテゴリ: 自作小説
- 2013/07/23 17:44:16
『とぐろは恐ろしか!』
囲炉裏の前で呟くお爺(じい)の姿が辰之助の頭に何度も浮かんでいた。海岸線には、離岸流(りがんりゅう)という急流並みの早さで沖に流れる引き潮が生じる。特に湾曲した海岸線では日常的に発生する。それでも普通の離岸流であれば、船上にいる限り何も心配することはない。まして辰之助ほどの操...
思ったこと、感じたことの日記
『とぐろは恐ろしか!』
囲炉裏の前で呟くお爺(じい)の姿が辰之助の頭に何度も浮かんでいた。海岸線には、離岸流(りがんりゅう)という急流並みの早さで沖に流れる引き潮が生じる。特に湾曲した海岸線では日常的に発生する。それでも普通の離岸流であれば、船上にいる限り何も心配することはない。まして辰之助ほどの操...
初雪が降った翌朝、白く染まった御山の中腹から小さな湯気が立ち昇った。
それは温泉と呼ぶにはおこがましいほどの小さな湯溜まりで、山肌から漏れ出でた熱湯が小さな筋を描きながら時間をかけて岩の窪みに溜まったものだった。
この湯溜まりを知っているのはこの地に棲む動物たちと空を飛ぶ鳥たちだけだった。鳳(ホウ)...
【収穫の秋】辰之助は、残暑の海に漕ぎ出すとまぶしい光に目を細めながら海鳥のあとを追いかけた。
海は完全な凪で、舳先に当たる波音とギイギイと鳴る櫓音しか聞こえない。
「船を進めるにゃ都合は良いが…」
辰之助は、小さくなっていく海鳥の姿に思わず愚痴を漏らした。
小船を操る近海漁師にとって残...
「ま、また天が食われた!」
1年前にも欠けた太陽が再び欠け始めると、人々の恐怖心は頂点に達した。
『再び天が消えるでしょう。ヒミ様が悲しんでいらっしゃるから…』
若巫女テヨの予言が現実になった。
侵食する月が太陽に飲み込まれ、鮮やかな金環食を作り上げた時、先代女王ヒミの墓所たる天の...
草原に座り込んだ私たちは、差し入れられたおはぎを頬張りながら少しひんやりするそよ風の心地良さを味わっていた。遠くにはまだ五分咲きの桜が見える。「『散る花あれば咲く花あり。散る花も元は栄えた花。花が肥やしになって次に咲く花を育てるんじゃ』…俺は爺さんからこう聞いた。だから俺はここにいる。...