「眠れる王子」の部屋は、王宮の本棟から離れた奥庭に別棟としてしつらえてあった。学院から戻ってからの六年余りの間、一日数回、専属の医師と魔法使いが出入りする以外は、誰も足を踏み入れていないという。二人とも、特に掃除やベッドリネンの交換はしていない、と口をそろえて言うのに、その別棟は埃も溜まらず、清潔...
ぶろぐ、の、ようなもの。
「眠れる王子」の部屋は、王宮の本棟から離れた奥庭に別棟としてしつらえてあった。学院から戻ってからの六年余りの間、一日数回、専属の医師と魔法使いが出入りする以外は、誰も足を踏み入れていないという。二人とも、特に掃除やベッドリネンの交換はしていない、と口をそろえて言うのに、その別棟は埃も溜まらず、清潔...
何と答えたものだろう。
この人は、クリスを失うわけにはいかない、と言いつつも、もし、そうなったときのことを考えている。おそらくは、クリスの命までもが失われる事態さえ、想定しているのだ。
魔法を使う者の立場からすれば、制御することができないとわかっている幻獣を継承させるのは、無意味な行為だ。...
国王の目配せで王妃が席を立った。他の参加者を促して、その場を離れる。
今日の茶会は、天気が良い、ということで庭の四阿で開かれている。
心地よい風が吹いていたが、今はそれを感じている余裕がなくなった。
王がカップを皿に置いて、口を開いた。
「ケルヴィン学長のところに厄介になっているそ...
「炭、というよりも、あれは、蜂蜜のかかったレンガだったと思うの。硬くて歯が欠けちゃったのよ。乳歯だったからよかったけど」
「歯が欠ける程、硬い、ケーキ…………」
王妃のあきれたような視線が痛い。
「念のために聞くけど、それを作ったのって、やっぱり…………アレク?」
クリスの問いに、...
「両親の仕事の関係で、物心つく前から、学院内が遊び場だったんですよ。今のセシリアでも十分小さいですけど、もっと小さい…ほんの幼児の頃ですね。あまり小さな子ども、というのがいない環境なので、教職員の一部や学生に可愛がられていたそうです。……そのうちに、見よう見まねで学生のやる「集中」をやるようになっ...