黒いピアノと黒い猫 7
- カテゴリ: 自作小説
- 2023/09/23 19:36:40
父に叩かれて泣きながら家を飛び出した夜。
夜明けとともに目覚めると金色の瞳のあの猫がそばにいた。
朝の陽ざしの中で見ると、黒光りするその姿はがっしりしていてエゼルの倍くらい大きい。そっと頭を撫でると「グルルル。ウォーン」と啼いた。「お前に名前をつけようか。…バルドはどう?」バルドはじっ...
父に叩かれて泣きながら家を飛び出した夜。
夜明けとともに目覚めると金色の瞳のあの猫がそばにいた。
朝の陽ざしの中で見ると、黒光りするその姿はがっしりしていてエゼルの倍くらい大きい。そっと頭を撫でると「グルルル。ウォーン」と啼いた。「お前に名前をつけようか。…バルドはどう?」バルドはじっ...
夜中にふと目が覚めると、エゼルはいなくなっていた。そしてどこか遠くから「ギャオオオウウウ!」という動物の叫び声が聞こえてきた。
いつも起こしてくれた母がいなくなって、僕は寝坊ばかりしていた。父は「もう学校に行かなくていい」と言って、僕たちはお互いに好きな時に起きて好きな時に食事する生活になった。
昼...
隣の国との戦争が続いていることは知っていたけれど、僕たちが住んでいる田舎には関係ないと思ってた。
学校では、いろんな噂がとびかっていた。首都ではダヤン人がカフェで突然撃たれて殺されたとか。逆にダヤン人が突然カフェで誰かを撃ち殺したとか。悪いことをしてお金を貯め込んだダヤン人の店が襲われたとか。ダヤン...
父と母と猫のエゼルと一緒だった日々。それは二年前に突然終わった。僕は10歳だった。なんだか、すごく昔に感じる。時々、あの頃の出来事はみんな夢だったんじゃないかと思ってしまう。
夢じゃない証拠は僕と母の幸せそうな写真。でも父が一緒に写っている写真はない。父は写真を撮るのが仕事なのに自分が撮られるのは嫌...
父が僕をキライになったのは、僕が父の嘘を見抜いたから。
きっとそうだ。
だって、父が嘘を言うようになるまでは僕たちはけっこういい親子だったと思うから。その頃は母も生きていて、猫のエゼルも…。森で会った、あの猫はエゼルに似ていたな。瞳の色はエゼルは緑色だったけれど。どっちもしっとりしたビ...
|