夏のデートについて(あるいは七夕小説の続き)
- カテゴリ: 自作小説
- 2013/08/21 21:50:36
待ち合わせ場所は人でにぎわっていた。
うっかりすると人に流されてしまいそうなほど。
だから、彼女が先に来ていたのに気付けなかった。
「あ、牧田さん」
彼女の声がしてそちらに顔を向けたが、それでも数秒気付けなかった。
人波を縫ってこちらに近づいてくる浴衣の女性がいるのに気付き、&hell...
ぶろぐ、の、ようなもの。
待ち合わせ場所は人でにぎわっていた。
うっかりすると人に流されてしまいそうなほど。
だから、彼女が先に来ていたのに気付けなかった。
「あ、牧田さん」
彼女の声がしてそちらに顔を向けたが、それでも数秒気付けなかった。
人波を縫ってこちらに近づいてくる浴衣の女性がいるのに気付き、&hell...
ケンゴは自分の名前があまり好きではない。
特に字面が。
『どういう字を書くのか?』と訊かれる度に、いったい何を考えてこんな字にしたのか、と親に問い質したくなる。
だから、公的な書類以外は『ケンゴ』で通している。携帯電話のプロフィールも例外ではない。
だから、付き合って一年になる彼女も、彼の...
綾の許にその携帯電話が届けられたのは、春先の事だった。
送り主は綾の現住所を知らないので、それは実家に届けられた。彼は綾がしばらく実家にいるのを知っていたのだ。
綾が一人になったことも。
会うのは、年に一度
別れた時の約束で、そう決められていた。
彼は律儀にその約束を守りつつけた。今...
「……この絨緞って、もしかしたら……カルヴェス山羊の?」
夏至祭のために【学院】を離れたアレクが、ドアを開けて足元をまじまじと見つめ、恐る恐るそう口にする。
『カルヴェス山羊の毛』が平地(した)では『繊維の宝石』と呼ばれる素材の一つだという...
「素朴な疑問があるんだが?」
ドレスをぎゅうぎゅうに着せ付けられた彼が言った。もちろん着せ付けたのは私なんだけど。試着の時ほどは締め上げてないはずなんだけど。
「何? 答えるのが面倒な質問だったら受け付けないよ?」
化粧道具をテーブルの上に並べながら、私はそう答えた。舞踏会の開始まであと半時を切...