自作小説倶楽部8月投稿
- カテゴリ: 自作小説
- 2025/08/31 21:02:55
「上階の女神様」
「こんばんわ。最近忙しいですか?」背後から声を掛けられて少し驚いたが振り返ると見知った温和な笑顔があった。同時にここ数日の帰宅時間が遅いことを言われたのだと気付く。有紀子は笑顔を作り応じる。「時期的なものです。何か連絡はありますか?」相手はマンションの管理人だけあって白髪もきちんと...
「上階の女神様」
「こんばんわ。最近忙しいですか?」背後から声を掛けられて少し驚いたが振り返ると見知った温和な笑顔があった。同時にここ数日の帰宅時間が遅いことを言われたのだと気付く。有紀子は笑顔を作り応じる。「時期的なものです。何か連絡はありますか?」相手はマンションの管理人だけあって白髪もきちんと...
『転換星』
「反省することなんて無いんだよ! 俺は人助けをしたんだ! それなのに反省文なんて、」平和で平凡な高校の昼休み。和気あいあいと青春の会話と食欲を楽しむ生徒の中で一人だけ叫び声を上げた者がいた。振り返らなくてもそれが誰かわかっている。平々凡々な容姿に学力体力その他も平均的な能力、佐藤という名...
『夢の図書館』
二人の男がその図書館を訪れた。前を歩くのはステッキを使う老人でやや猫背気味だった。後ろの青年は老人に歩調を合わせている。「変わらないな。ここだけは時間が止まっているようだ」老人は巨大な書架やわずかな明かり取りの窓を見上げて思わずつぶやいた。「先生の研究の基礎がここで築かれたのだと思う...
『事件の後』
「仕事は終わったはずよ」夫人は一見穏やかな微笑を浮かべて俺に言った。よく見ると瞳の奥に剣呑な光が宿っている。獲物に飛びかかる蛇を連想した。俺は少し息を吐き、用意していた台詞を口にする。「当探偵事務所はアフターケアも万全なんですよ。契約時に説明したでしょう? なに、30分もかかりません。...
『彼の微笑み』
「ツネ婆さんが亡くなったなら。明日帰るよ」「どこに?」彼の言葉に間抜けにも私はそう応じてしまった。「故郷に帰る」に決まっている。しかしツネ婆さんが住んでいた田舎が私の故郷かというと、そうではない。「婆さん」と呼んでいるが彼女は私の大伯母あたりの親戚らしい。私とツネ婆さんの正確な関係は...
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