晩期(梅雨のあしおと)
- カテゴリ: 日記
- 2026/06/12 14:30:57
「幸福(しあはせ)のあつまる場所を、人は終着駅と呼ぶのださうです。
しかし、そこへ行き着くための切符を、私はいつのまにか失くしてしまいました。気がつけば、私のまわりには、ただ鬱陶しい梅雨の雨と、
行き場のない、みつともない涙の雫があるばかり。いまさら、誰を恨むわけでもありません。
これは、ただの愚か...
「幸福(しあはせ)のあつまる場所を、人は終着駅と呼ぶのださうです。
しかし、そこへ行き着くための切符を、私はいつのまにか失くしてしまいました。気がつけば、私のまわりには、ただ鬱陶しい梅雨の雨と、
行き場のない、みつともない涙の雫があるばかり。いまさら、誰を恨むわけでもありません。
これは、ただの愚か...
窓のそとには かすかな雨のしづくが
かすんで消え去る ひとつの旅の終はりに
あたたかい記憶のなかの あの日のはなびらが
いまも私のこころに そつと舞ひ降りる汽車は鳴らす かすれた汽笛の音を
遠いあふぞらの 見えない記憶にむけて
あまたの駅をすぎ ここまで運ばれたものは
ただひとつの 小さななみだの雫...
いつしか街は 淡いみどりにつつまれて
しづかに始まる あめの季節のゆうぐれ
窓にのこされた 小さななみだの雫は
かすかな光をあつめ ただきらめいている遠くのほうで ひびく切ない汽笛のねは
白くかすんだ 雲のむかうへ消えてゆく
私はひとりで 古いともしびをかかげ
すぎてゆく日の やさしい足音をきいてい...
つめたい雨は すべてを濡らしてゆく
あぢさいの青も 夕闇のふかい底へと
わたしのこころの 小さななみだの雫は
どこへも行けずに ただ溢れてしまふ遠い駅からは かなしい汽笛のねが響き
もう帰らない旅人を 呼んでいるやうだ
あんなに優しかつた あの日の光は消え
いまはただ 梅雨のはじまりの暗いよるあなた...
_昭和初期仮名遣い_
雨はしとしとと 暗き窓(まどひ)を濡らし
遠き寺の鐘 はるかに響きわたる
わが部屋のみぞ 寂しくとり残され
小さきともしび しづかに揺らぎをるここにはもう 誰も来ぬなれば
優しき思ひ出も 雨の音に消えゆき
ただ灰色の闇のみ 部屋に満ちすすめば
われはひとり 冷たき時を生きてあ...