「ほんとうに行くのか?」
「ああ、行くよ」
友人の目に涙が浮かんだ。
わたしは言葉をつくして慰めた。
だが、なにはともあれわたしにはすることがあった。
遺言の口述だ……。
「いいか、オットー、もしもわたしが家に、妻のもとにもどらなかったら、そして君がわたしの妻と再...
愛と平和を
「ほんとうに行くのか?」
「ああ、行くよ」
友人の目に涙が浮かんだ。
わたしは言葉をつくして慰めた。
だが、なにはともあれわたしにはすることがあった。
遺言の口述だ……。
「いいか、オットー、もしもわたしが家に、妻のもとにもどらなかったら、そして君がわたしの妻と再...
区長たちの顔には、複雑な表情がうかび出ていた。
銀四郎が乞いをいれてやってきてくれたことに安堵を感じていたが、同時にかれに対する嫌悪も重苦しく胸に湧いていた。
懇願されてやってきた銀四郎は、傲慢な態度をとるにちがいなく、それをどのように扱うべきか不安であった。
銀四郎が、男たちとと...
彼の心は重く、昨晩から物悲しい気分だった。
宝物を探し続けるということは、ファティマを捨てなければならないことを意味していた。
「わしがおまえを案内して、砂漠を渡ろう」と錬金術師は言った。
「僕はオアシスにずっといたいのです」と少年は答えた。
「僕はファティマを見つけました。...
あのころのわたしは、文を大人だと思っていた。
けれど、たった十九歳だったのだ。
わたしはただそこにいるだけで巨大な荷物となって文を押しつぶしただろう。
十九歳の大学生が、九歳の女の子をいつまでも手元に置いておけるはずがない。
いつかは必ずばれる。
休日にふたりでだらだら...
ジャケツを持っていくか? と、中佐はうしろを振りかえった。
いや、営倉ではジャケツを取りあげてしまい、防寒服だけしか認めないのだ。
じゃ、このままでいこう。
中佐はヴォルコヴォイが忘れてしまうことを期待して(とんでもない、ヴォルコヴォイはだれに対しても決して忘れたりはしない)、なん...