「ミセス・ベン、どうやらバスが来たようです」
私が停留所の外に出てバスに合図している間に、ミス・ケントンはベンチから立ち上がり、屋根の端まで来ていました。
バスが止まる瞬間まで、私はミス・ケントンのほうを見ることができませんでした。
最後に視線を合わせたとき、ミス・ケントンの目に涙...
愛と平和を
「ミセス・ベン、どうやらバスが来たようです」
私が停留所の外に出てバスに合図している間に、ミス・ケントンはベンチから立ち上がり、屋根の端まで来ていました。
バスが止まる瞬間まで、私はミス・ケントンのほうを見ることができませんでした。
最後に視線を合わせたとき、ミス・ケントンの目に涙...
「できあがった、わーよう!」とうたいながらペチカが部屋にはいってくる。
「ちょっとたくさん作りすぎたけど、全部たべてね、ジュゼッペ」
「ねえ、ペチカ」とジュゼッペはたずねた。
「雪はまだ残ってるかい?」
ペチカは窓の外をみおろす。
「ええ、残ってるわ」
「でも、空...
キップは乳母を愛し、乳母もそれを知っていた。
だが、キップが乳母に慰めを返したのは一度しかない。
それは、乳母の母親が死んだとき。
キップは乳母の部屋に忍び込み、急に年老いたその体を抱きしめた。
小さな召使い部屋で嘆く乳母に、横になって黙って寄り添った。
乳母は激しく、...
自分を醜いと信じているこの少女は、咄嗟の間に、いつも抑えつけていたいちばん心の底からの質問を、それもこの若者にむかってしか決してしなかったであろう質問を、思いがけず口走った。
「新治さん、あたし、そんなに醜い?」
「え?」
若者は測りかねた面持でききかえした。
「あたしの顔、...
だれか話し相手がいるというのはどんなに楽しいことかが、はじめてわかった。
自分自身や海に向っておしゃべりするよりはずっといい。
「お前がいなくて寂しかったよ」と老人はいった、「なにをとったかね?」
「はじめの日に一匹、それから二日目に一匹と三日目に二匹とった」
「大出来だ」
...