ファイヤーエムプレスローズ 7
- カテゴリ: 自作小説
- 2025/01/01 16:57:22
爺やといえば小さい頃、お姉さまたちと庭仕事をしたことがあったっけ、と、末の姫は思い出しました。 薔薇の国においては、音楽や乗馬などと並んで、園芸も貴族の趣味の一つとされています。貴族の子弟は成人するまでに一通りの基礎を身に着けておくべきとされているので、庭師の地位は、学問や教養の師と同じような位置...
爺やといえば小さい頃、お姉さまたちと庭仕事をしたことがあったっけ、と、末の姫は思い出しました。 薔薇の国においては、音楽や乗馬などと並んで、園芸も貴族の趣味の一つとされています。貴族の子弟は成人するまでに一通りの基礎を身に着けておくべきとされているので、庭師の地位は、学問や教養の師と同じような位置...
石の国の捕虜の兵士たちは、困惑していました。 捕虜生活というものは、もっと寒くてひもじくて過酷なものではないのか、と。 暖かく快適な部屋に寝具に食事、飢える心配も凍える恐れもなく、そのうえ働く必要もないなんて、心配しているだろう故国の家族に申し訳ない気持ちでいっぱいです。収監されている場所さえ地...
中の国の王子は、混乱していました。 なぜ自分は今、丸腰で白旗を持って、城門を出なければいけないのか、と。 右を見れば、綿の国の王がいます。二年前、城壁の周囲を中の国の兵に取り囲まれ白旗を持って出てきたこの男は、二年後にまたもや白旗を持って自分の城を明け渡す羽目になっているというのに、どこか落ち着い...
薔薇の国と中の国に挟まれた小国の一つに、二年前、突然中の国が侵攻を始めました。 綿花や綿織物の生産が盛んなこの国を、綿の国と呼ぶことにします。 長く戦争のない時代が続いていたため、悪く言えば平和ボケしていたこの小さな国を、ある日、中の国の兵隊が、文字通り国ごと取り囲みました。形式的に置かれていた国...
人質は、宮殿の四隅にある塔のいずれかに入れられることになっており、石の国の王子は、北の塔に入れられています。塔の窓からは、薔薇の国と石の国との境に聳える山脈がよく見えます。石の国の王子は、書物などを読んで過ごすことが多かったのですが、ふとした時に、窓から山脈を眺めることがありました。 「故郷が恋...