Nicotto Town



握った手

太陽が昇り始めた頃
彼はデッキに出る
それからは自室に籠もって何かをしている
食事の時間の前に私の部屋に足を運ぶ
月が顔を出す頃になると
もう数千回 数百万回 
聴いただろうか
同じ音楽が流れる
それは静かで優しくて
でもどこか悲しそうな曲だ

私はといえば
デッキに行くことを許されていないから
彼...

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握った手

ビーフシチューを初めて食べたのは
3つ前の凍るような時だった
口に運び飲み込むたびに身体は徐々に熱くなった
―その前に私は食べたことはあっただろうか

そんな事を考えているとある事を思い出した
初めてビーフシチューを食べた日
大きなケーキが出たきた
いつも食べているようなカットされたものではなく丸い...

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握った手

彼がノックをして私の部屋に入ってくる
「酔っていないか」
「はい」
そう応えたが『酔う』という事が分からない
「そろそろ夕食の時間だ。何か食べたいものはあるか?」
私は少し驚いた
こんな事を訊かれたのは初めてだった
食べる前に彼が教えてくれた料理の名前が頭の中で渦巻く
一番美味しかったものを応えよう...

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握った手

日が南南西に傾いた頃
彼は帰って来た
おかえりなさい
心の中でだけ呟く
彼から話しかけられた時だけ
私から話しかける事は禁じられている
「行くぞ」
「はい」
手ぶらで部屋を後にする

いつも部屋から見ていた
海 という所に向かう
それは透明で 
太陽の光を受けると
輝いていた
彼の部屋にあった
宝石...

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握った手

少し冷たくて細い指
がっしりした大きな手
私の手は包まれるように
でもしっかりと握られる
応えるように
そっと握り返す
  
私たちは眠りについた
心地よい眠り
暖くて幸せで平和な眠り


「起きたか」
身体を起こすと青年がイスに腰掛けて紅茶を飲んでいる
「円も飲む?」
「うん」
頷くと私は彼の向か...

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