乾いたアスファルトを蹴り、俺は行く。背中に投げつけられた「正しい生き方」なんて、
どぶ川に捨てた吸い殻と一緒に流してやった。
説教臭い人生訓を吐く野郎の面(つら)は、
いつだって磨きすぎた鏡みたいに退屈だ。「明日のために」
「誠実であれ」
「絆を大切に」安い酒の酔いも醒めないような言葉を、
俺の耳に...
乾いたアスファルトを蹴り、俺は行く。背中に投げつけられた「正しい生き方」なんて、
どぶ川に捨てた吸い殻と一緒に流してやった。
説教臭い人生訓を吐く野郎の面(つら)は、
いつだって磨きすぎた鏡みたいに退屈だ。「明日のために」
「誠実であれ」
「絆を大切に」安い酒の酔いも醒めないような言葉を、
俺の耳に...
三発目の汽笛が、埠頭の静寂を切り裂いた
もやの中から浮かび上がったのは
彫りの深い、硝子細工のような横顔だ彼女は東洋の静寂と
西洋の激情をその瞳に宿していた
濡れたトレンチコートを纏い
霧を吸い込んだサックスのように
少しかすれた声で、彼女は呟く「この船に乗れば、昨日は消えるのかしら」差し出した俺の...
朝もやを切り裂く汽笛は
古いレコードの針飛びに似ていた
路地裏の二階、看板の消えたJAZZ喫茶
スピーカーからは
コルトレーンの咆哮が埃と共に舞い上がる昭和という名の重たいコートを
俺たちはいつまで脱げずにいるのか
カウンターに残された琥珀色の指紋
氷の溶ける音だけが
饒舌に過去を語りだす「あいつは...
バーボンの匂いと
昨夜の賭けの残骸が
トレンチコートの襟にこびりついている港の朝は早い
冷えた空気が肺に刺さり
感情のささくれを凍らせていく遠く、霧の奥から
男の別れのような低い汽笛が響いた
誰かが去り、誰かが残る
この街のいつもの儀式だポケットの中でライターを転がす
火をつけるべきか、このまま消え...
夜が明けきらぬ埠頭は
冷えたコーヒーのように苦い
白く濁った朝もやの向こう
見えない巨獣が吠えた
——汽笛だ。湿った風がコートの襟を叩く
消えかけた街灯の下
昨日の嘘を海へ投げ捨てたが
波の音は何も許してはくれない鉄錆の匂いと
誰かが残した安煙草の残り香
世界が目覚める前の
...