「泣きたかったら存分に泣け。おれはかまわんぞ」
「もっとほかに言うことがあったんだ」
文四郎は涙が頬を伝い流れるのを感じたが、声は顫えていないと思った。
「だが、おやじに会っている間は思いつかなかったな」
「そういうものだ。人間は後悔するように出来ておる」
「おやじを尊...
愛と平和を
「泣きたかったら存分に泣け。おれはかまわんぞ」
「もっとほかに言うことがあったんだ」
文四郎は涙が頬を伝い流れるのを感じたが、声は顫えていないと思った。
「だが、おやじに会っている間は思いつかなかったな」
「そういうものだ。人間は後悔するように出来ておる」
「おやじを尊...
誰かがわたしたちを必要とするのは毎日ってわけじゃないんだ。
実のところ、今だって、正確にいえば、わたしたちが必要なんじゃない。
ほかの人間だって、この仕事はやってのけるに違いない。
わたしたちよりうまいかどうか、そりゃ別としてもだ。
われわれの聞いた呼び声は、むしろ、人類全体...
お蕙ちゃんは「あたしお引っ越しはうれしいけど遠くへいけばもう遊びにこられないからつまらないわ」とやるせなさそうにいう。
で、私もどうしようかと思うほど情けなくなって二人してふさいでいた。
これがお別れだといってその晩はみんないっしょに遊んだが乳母もさすがに「ほんとうにおふしあわせなお子さ...
何分かして、黒い修道服を身にまとった、背の高い修道士が現れた。
彼はぼくを見てにこやかな笑顔になった。
額の広いその顔は、ほとんど白髪のない栗色の小さな巻き毛に縁取られており、同じように栗色の髭がペンダントのように垂れ下がっていた。
彼はどう見ても五十以上ではないだろうとぼくは推測...
あんたに話したいことがあるの、と佐知子がいった。
なんだ、と僕はいった。
「あんたがどう思ってもいいわ。本当は静雄は明日、この部屋をでるつもりだったのよ。それを今夜、あんたにいうつもりだったの」
「静雄がでて行くのはあいつの勝手だよ」
「聞いて。海できめたの」
「話さな...