裏切りの夜風が、俺のトレンチコートの襟を鳴らす。
行きつけの寂れたバー、カサブランカ。
カウンターの隅、影を飲み干す俺の隣に、その男は座った。奴が口を開けば、話はいつも同じ。
「この前、ドバイのVIPルームでさぁ」
「昨日、ロレックスの限定モデルが、また増えちゃってね」
「俺の部下ってやつぁ、まった...
裏切りの夜風が、俺のトレンチコートの襟を鳴らす。
行きつけの寂れたバー、カサブランカ。
カウンターの隅、影を飲み干す俺の隣に、その男は座った。奴が口を開けば、話はいつも同じ。
「この前、ドバイのVIPルームでさぁ」
「昨日、ロレックスの限定モデルが、また増えちゃってね」
「俺の部下ってやつぁ、まった...
「あと数段で、雲の上だ」男が吐き出した言葉は、安物の葉巻より鼻につく。
奴は自分がピラミッドを登っているつもりらしいが、俺の目には、巨大な蟻地獄で必死に足を回す虫にしか見えない。出世という名の、体裁のいい「首吊り縄」。
男はそれをネクタイと呼び、毎日丹念に結び直している。
誰の靴を舐めたか、誰の背中...
「安心してください。あなたの命を奪うほど、俺は暇じゃない。
ただ、その汚れきった顔を、今一度その泥水に映してみるといい。あなたが明日、また教壇に立ち、
子供たちに『正義』や『誠実』を説くとき、
その喉の奥にこびりついた、この路地裏のヘドロの味が
あなたを永遠に苛(さいな)み続けることになる。汚職で肥...
一歩踏み込めば、湿ったゴミと絶望が混じり合った、特有の死臭が鼻を突く。
そこには、博士の言う「自己責任」という言葉で
皮を剥がれ、骨までしゃぶり尽くされた弱者たちが転がっている。視線の先、高級なスーツを泥で汚した「教育者」がいた。
昼間は教壇で道徳を説き、夜はこの暗がりに
歪んだ性欲をぶちまけに来る...
コートの襟を立て、
重い防音扉を背中で押し開ける。
途端、生温かい雨が頬を叩き、
街が吐き出す腐った呼吸が肺を満たした。遠くで響くサイレン、
止まない罵声と、鈍い衝突音。
「平和」や「秩序」なんてのは、
この喧騒(ノイズ)の中じゃ、聞き取れもしない。あそこでうずくまる若者も、
高架下で乾杯する亡者た...