Nicotto Town



湿熱の果実

果実が裂ける。
湿った甘い匂いが、
夜の底を満たしていく。 汗に似た汁が肌を伝い、
声もなく、
愛が腐りはじめる。 死は遠くない。
熱は、まだ収まらない。 やわらかく崩れた肉体に、
花が咲く。
咲いて、甘く朽ちる。 それでも美しい。
だから終わらない。
この夢も、熱も、
私の中で...

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指の折れる音

彼女の言葉は、
赤い絹糸のようにわたしの皮膚を裂いた。
答える声は持たず、ただ熱だけが
わたしの指先に溜まっていく。 愛と呼ばれる儀式を拒むたびに、
指が折れる音がする。
触れないことでしか、
美しさを保てない関係があるのだ。 香水のように満ちる夕暮れ、
ガラスの舌で味わう傷口。
そ...

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「泣きそうになったが、泣かなかった話」

鬼滅の刃の映画を観た。
物語の後半、胸を刺すような場面が続いて、気づけば呼吸が浅くなっていた。
こういうとき、昔なら素直に涙も出ただろうと思う。
だが今はもう、そう簡単には泣けない。
年を重ねると、涙もどこかに引っかかって、うまく流れない。 隣の席には、小学生の女の子。
最初は静かに観てい...

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独りは骨の内側で起こる

夜になると、骨が鳴る。
誰にも触れられてないのに、
内側で擦れて、軋む。 寂しさは皮膚じゃなく、
たぶん、胃の奥に棲んでる。
何を食べても、満ちないのはそのせい。 誰かの声が恋しいのではなくて、
自分の声が聞こえないことが怖いだけ。
静かすぎて、心臓の音がうるさい。 独りは、
神経の先...

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緑の底で息をやめる

白い喉が、
まるで刃物のように、夜の静けさを裂いていた。 その一瞬、時間は止まり、
世界の中心がふたりの皮膚の接点へと、ぎゅっと縮んだ。 布の下で、汗ばむ肉がわずかに震える。
それは羞恥ではなく、悦びでもなく、
ただ、意識が肉体に屈服する音だった。 指先は、ふれるのではない。
侵入するでも...

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