ダイナー・ブルースは波に消える
- カテゴリ: 日記
- 2026/06/18 19:50:46
ネオンの文字が、いくつか死んでいる。
「D I N E R」の文字だけが、潮風に震えながら赤い光を放っていた。
窓の外は、真っ暗な太平洋だ。
打ち寄せる波の音が、重低音のドラムのように足元を揺らしている。店内のジュークボックスから流れるのは、やはりジャック・ティーガーデンだ。
彼のトロンボーンは、ま...
ネオンの文字が、いくつか死んでいる。
「D I N E R」の文字だけが、潮風に震えながら赤い光を放っていた。
窓の外は、真っ暗な太平洋だ。
打ち寄せる波の音が、重低音のドラムのように足元を揺らしている。店内のジュークボックスから流れるのは、やはりジャック・ティーガーデンだ。
彼のトロンボーンは、ま...
アスファルトが昼の熱を吐き出している。
港の空気は重く、肌にねっとりと絡みついた。
開け放たれたバーの窓から、ビリー・ホリデイが流れてくる。
「肉体と魂」のブルース。
その歌声だけが、この乾いた熱帯夜のなかで冷たく澄んでいた。上着を脱ぎ、シャツの袖を乱暴にまくり上げる。
額を流れる汗は、涙の代わりに...
午前五時三十分。
闇に消え損ねた俺は、うらぶれた安ホテルの部屋にいた。
壁に掛かった錆びた十字架が、斜めに傾いている。
誰も救わなかった、誰も救えなかった、鈍い鉄の塊だ。鏡に向かい、冷たい水で顔を洗う。
だが、そこに映る俺の顔は、ひび割れて歪んでいた。
お前を突き放した瞬間に、俺の手で叩き割った割れ...
まぶしい初夏の ひかりが青空にみちるとき
小鳥のさえずりが 森の奥からきこえてくる
世界はこんなに たのしげに歌っているのに
わたしの心だけが 切ないなみだに暮れていますそよ風が やさしく草の葉をゆらしてゆき
きらめく木漏れ日が わたしの影を浮きぼりにする
いくら涙をふいても あとからあとからあふれ...
午前五時。
闇に消えたはずの俺の足が、なぜか止まる。
雨はまだ、路地裏の泥を洗い流し続けている。
お前を突き放したはずの胸の奥で、
名前のない痛みが、静かに疼きだした。マクダラのマリア。
かつて罪に汚れ、それでも誰よりも激しく泣いた女。
彼女の涙は、許しと救いの始まりだったという。だが、この雨に濡れ...