あさましい、とはこのことか。
かつては、私の背をあたたかく包んでくれたその手で、
母は、自分の便(べん)を弄(まさぐ)り、
お気に入りの牡丹(ぼたん)の茶碗を、
庭の石へ投げつけて割った。
ああ、なんと、滑稽で、悲しい、絵画のような光景。「あなた、だれ?」
一日三度、私は、知らない男に生まれ変わる。...
あさましい、とはこのことか。
かつては、私の背をあたたかく包んでくれたその手で、
母は、自分の便(べん)を弄(まさぐ)り、
お気に入りの牡丹(ぼたん)の茶碗を、
庭の石へ投げつけて割った。
ああ、なんと、滑稽で、悲しい、絵画のような光景。「あなた、だれ?」
一日三度、私は、知らない男に生まれ変わる。...
恥の多い旅路を歩いてきました。
私には、人の言う「まっすぐな道」というものが、どうしても見当がつかないのです。 *朝、目覚めるたびに、私は自分の卑屈な横顔を鏡に探す。
「お早う」と、世間に向かっておべっかを使う。
その口先の下で、真っ赤な舌を出している自分に、
私は、たまらなく吐き気がするので...
また、逃げた。
夜明けの、鉛色の空を背負って、
ぼくは無目的の切符をポケットに突っ込む。「どこへ行くのか」なんて、聞かないでほしい。
誰もいない場所、なんて、
この世のどこを探したってないのだから。
ただ、いまいる場所が、ひどく息苦しいだけ。停車場のベンチで、
安っぽい煙草の煙を吐き出しながら、
ぼ...
── 獣、森、そして星のしじまへ ──Ⅰ. 獣たちの落日
風は いちどきに ひるがえり
あかるい雲の あわいに 消えた
遠い けものたちの 足おとは
いまは ひそやかな 祈りのようだ金のたてがみは 夕陽に とけて
草のなかに しずかに 横たわる
きらめく瞳も やがて とざされ
深い 眠りの 淡彩(パ...
あえかな 月の ひかりが
森の なきがらに 降りそそぎ
きみの 面影の ひとみも
いまは 露の きらめきに銀の 糸を ひくような
夜の 静かな 弔いの調べ
星の しじまは いよいよ 深く
すべてを 蒼い 底へと 沈めて