Nicotto Town


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もはや箱ティッシュが親友です。

投稿者:ヨネ

 けたたましい目覚ましの音に、体が無意識を追い出して意識を持たんとする。睡眠は途切れたが、眠気がふっつり絶たれたわけではない。うやむやな脳みそのまま、枕元の目覚まし時計のアラームを切る。これが、江波幸助二十七才の朝一番の仕事である。
 寝たい寝たいとダダをこねたい自分を律し、時計の隣のメガネケースからメガネを取り出し装着。これが第二の仕事だ。クリアになった視界に安心して身を起こす。第三の仕事は、更にその隣の箱ティッシュで鼻をかむ、だった。
 江波は休日でも、出勤日と同じ時刻に目覚ましをセットしている。たまの休みには、親友と散歩をして気分の入れ替えを心がけているからだ。
 八枚切りの食パンを二枚朝食としてほお張り、洗顔、歯磨き、着替えと身だしなみを整える。ひげは誰と会うわけでもないので今日は放っておく。
 散歩には準備が必要だ。一旦玄関に向かい、食卓と寝室を兼ねる六畳一間に戻った江波の手には、赤いリードが握られていた。首輪のベルトをゆるめ、手際よく頭を通す――――先程使用した箱ティッシュの。箱ティッシュの真ん中でベルトは調節され、江波は万が一にも抜けないようたるみがないか入念にチェックする。問題がないと分かると、手綱をしっかり掌中に収め再度玄関へ歩いた。箱ティッシュは引きずられるようにして、一度机の足に引っかかりながらも健気に江波の後を追った。

 ザラザラザラ……コツン。川の側の道は舗装されておらず、時折小石を弾いたり乗り越えたりしながら、箱ティッシュは江波に従順に着いて行く。ジョギングコースとして町民に親しまれているため、すれ違いや追い越しが数回あった。
 江波の箱ティッシュは、ここいらでは有名だった。箱の柄があまりにも立派だったからだ。この世には存在しない空想の花がダイナミックにあしらわれ、にせものながら鮮やかに匂いたちそうな意匠に、道行く人々は往々にして「あらすてき」とこぼした。江波にはそれが自慢だった。

 江波は悲嘆に暮れていた。アレルギー性鼻炎と花粉症を罹患していた江波は毎朝一枚はティッシュを抜き取っていたため、とうとう箱ティッシュの中身を使い切ってしまったのだ。天命だった。
 数少ない楽しみを失ってしまった江波は街を彷徨う。スーパー、ドラッグストア、コンビニ……足が赴くままに歩くと気付けばつい親友の面影を探してしまう。しかし見つからない。滅多に出会えないから親友と呼ぶのだ。
 あてどなく考えなしにぶらつく陰気な江波を誰も気にもとめなかった、ただ一人を除いて。
「こんばんはー。コンタクトに興味はありませんか? 今ならクーポン配ってまーす」
 陽気な女が手渡してきたのは、クーポンが一緒に内包されポケットティッシュ。
 江波幸助二十七才、ここに運命の出会いを果たす。

アバター
2024/07/19 23:01
やっぱりいいね。追記するのは文章がリズミカルだよね。
アバター
2024/06/29 14:34
第一の仕事だ、第二の仕事だ、第三の仕事だ。という言い回しが面白い。第四の仕事も続けて欲しかった。ウチの近所に亀の形をした大きい亀の子タワシにリードをつけて歩いてる若者がいる。発想はペットの代りに亀の子タワシを連れる発想は面白いが他人のタンツバとかついて不潔ぽそう。最後、箱ティシュからポケットティシュに運命の出会いがあるのかな?最後の文章に少し工夫した方が面白くない?面白い掌編小説。
アバター
2024/04/25 21:48
へえ〜、とても独特な発想で面白いです。



管理人
ケニー
副管理人
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公開
全公開
カフェの利用
朝10時~夜24時
カテゴリ
自作小説
メンバー数
12人/最大100人
設立日
2024年02月18日

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