へんてこな容器
- 2024/04/26 13:05:36
具合が悪いために会社を早退して、タクシーを拾って帰る。
パリのカルチエ・ラタン地区にわたしのアパルトマンがある。
わたしの部屋は4階にあって、エレベーターは無い。
階段を登ると少し息が切れる。
古いタイプの鍵を鍵穴に挿して回すのだが、もう古くて開けるのに少しのコツがいる。
部屋のドアを開けて、中へ入るとわたしの机の上には見たこともないへんてこなかたちの容器があった。
へんてこな容器のふたは見当たらず、なぜかそれが容器そのものを不安定に見せていた。
容器は薄い水色で形がきつくゆがみ、なぜかひとりでにふるえていた。
容器は、はじめて見たし、一体誰がおいたのかもわからないが、しかし、なぜか、「そこに初めからあった」かのようにも思えた。
容器の口から中には冷たい(触っていないのだが、明らかに冷たいとわかった)液体が8わり入っており、ささやかに波打っていた。
急に電話が鳴り、わたしはおおきく驚いた。
出ると叔父から、借金の申し込みであった。
わたしは30万ユーロ(約50万円)を貸すことを約束し、電話を切った。
受話器を置いて、ため息をついた。
容器はまだそこにあった。
まだそのへんてこなかたちの水色の容器はふるえていて、入っている液体の表面が微弱に波打っている。
まるで、とても、とても繊細で傷つきやすい誰かの心みたいに。
わたしは窓を開けた。
容器をつかんで窓から思い切り投げ捨てた。
空中で容器から中の液体が飛び散っているのが見えた。
あとはもう見ずに窓を閉めた。
窓の向こうで、知らぬ間にあんなにも巨大な飛行船が、パリの街の向こう側、水平線よりもずうっと、はるか向こうに浮かんでいた。
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- Arya-Sa
- 2024/07/19 22:57
- 十年後、同じテーマで同じ作品書いたら、また別の味の作品になりそう。たと僕は思う。
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- Arya-Sa
- 2024/06/29 14:24
- 捨てちゃうんだ?不思議な感じを与える掌編小説。
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