カミサマ
- 2024/12/13 13:18:04
久しぶりになんか書いてみようかにゃ。
即興で。
このカフェも、ずいぶん、ご無沙汰になってきたね。
たくさんの方々が色とりどりの本を置いてくださってるから、また気が向いたら、ちらっと読みに来てね。
。
晴れた日の朝、森へ出かける。
厚い雨雲が向こうのフランネルソワール山脈の上に見えるけど、今日の空気の感じだと、山の向こうへ行くだろう。
こちら側は晴れていて、気持ちの良い天気だ。
初夏だけど、ここは高所だからそんなに暑くはならないんだ。
皮のまる靴を履いて、てくてくと10分も歩くと、森の中にある小さな湖に着く。
簡単な折りたたみ椅子を出し、それに座って、釣り竿を出して準備する。
毎朝、ここで釣りをして、昼食や夕食の魚を獲ってから、家に戻って朝ごはんを食べるのが日課なんだ。
仕掛けは簡単で、丸い小さなウキと、針、それにツモリという小さな貝類の中身をつけるだけだ。
ボワーソっていううなぎの仲間や、マスなんかが釣れるんだよ。
その日もそうやって準備をしていたら、湖の向こうに何か影が見えた気がした。
何か動くものが、視界にちょっと入ったような気がしたんだ。
それで、顔を上げて、湖の向こう岸を見ると、また、白っぽい何かが動いた。
少し遠いからよくわからない。
でも、この辺りは、そんなに大きな動物は住んでないし、この季節、熊たちは餌を求めてブルックス川のほうに移動してるから、熊ではないはずだ。
なんだろう?
目を凝らして、よく見ていると、また動いた。。
カミサマかも知れない。。と思って、僕は少し緊張した。
カミサマというのは、いわゆる神様ではなくて、野生の馬の一種で、この森に言い伝えられてる伝説の生き物だ。
この森に一頭だけいるって、昔、亡くなったじいさんに聞いたことがある。
ちなみに、僕は、じいさんと妹と三人暮らしだったけれど、じいさんは4年前に亡くなって、妹は、3年前に隣村の男と結婚して、隣村に引っ越してしまったので、今はこの森の家に一人暮らしだ。
なんだ。。
思わず、そう呟いて、じっとその湖の向こう側を見た。
フワッと、何かが動く。
今度はよく見えた。
やはり、あれはきっと、カミサマだ!
カミサマは、名前の通り、神のようにとても特殊な力を持った生き物で、見た人はほとんどいない。
この森に80年も住んだじいさんでさえ、見たことがないと言ってた。
カミサマは、全身とても長い真っ白い毛で覆われていて、パッと見て馬には似ていないけど、馬の遠い親戚らしい。
馬というよりも、大きなヤギのようなんだけど、でも、もっとすごく足が長くて、体もとても大きいんだ。
今度ははっきり見えた。
地面につくほど長く白い全身の毛が優雅に風に揺れていて、鼻が犬のように長く、鋭く長い牙が口から出ていて、頭の上には、ユリと呼ばれる雲のようなものが浮かんでいる。
そのユリにはカミサマがカミサマたる所以となる力が宿っていると言い伝えられている。
本当に、伝説の通りの姿で、僕は思わず、口をぽかんと開けて、見続けてしまっていた。
目が逸らせない。とは、このことだろう。
カミサマは、悠々とした動きで、ゆっくりと湖面に頭を近づけると、水を飲み始めた。
白く長い毛がふわりと水について、水面で揺れている。
カミサマはしばらく水を飲んでから、頭を上げて、こちらを見た。
カミサマだ。。。
僕は、カミサマと湖を挟んで見つめあっていた。
とても大きな真っ白い体の中で、カミサマの目だけが青く、見事な美しさだった。
それからカミサマは、ゆっくり振り向くと、森の中に歩いて消えていった。
驚いたことに、カミサマは4本足ではなく、8本足に見えた。
白く長い毛の間から、確かに8本の足があるように見えたんだ。
僕は、もうなんだか、雲の上にいるような気持ちで、しばらくの間、ぼーっとカミサマが水を飲んでいた辺りを見つめていた。。
その日は、なんだかもう魚を釣る気持ちにはなれなくて、家に帰って、卵二つ、フライパンに落として目玉焼きを作り、パンとコーヒーと一緒に食べた。
それから、カミサマのことを考えた。
どうしてカミサマは僕の前に姿を見せてくれたのだろう?
言い伝えだと、カミサマは、この森の生と死を司り、死んだものを再生して他の命にするための力があるらしい。
僕はその後も、またカミサマに会えることを期待してその小さな湖に毎朝行くけれど、まだもう一度は会えてないんだ。
なんか、もののけ姫を、彷彿とさせるお話ですね
幻想的で美しい
突拍子もないことが起こりそうで、カミサマの姿が印象的に語られて終わる。
こんな不思議な雰囲気のお話がとっても好き。