Nicotto Town


モリバランノスケ


読谷村の小蝶

東シナ海を望む、断崖絶壁の景勝地。そこに、約700年は、生き続けている、シキミの老木が在る。その枝、葉隠れに、小蝶とクモ吉が、止まっている。海原は、大陸との間に挟まれて、まるで内海の如く静か。静寂に包まれる、二人。

(おはよう御座います)と、小蝶が、老木シキミに挨拶をする。老木からも、(おはよう)と返事があり、会話が始まった。

蝶 (静かな眺めですね!)
老 (一昨日までは、風雨の強い日もあった。
  が、梅雨も明けて、今日は、誠に穏やか。
  所で、そなたは未だ幼いが、私の良く知る
  アサギマダラに、姿形が良く似ておるよ)
蝶 (もしや、蝶の名は、お蝶ではないですか)
老 (いかにも・・・、そうだが?)
蝶 (始めまして。私は、娘の小蝶です)

小蝶の、(母のお蝶は、どの様なアサギマダラだったのでしょう)との問い掛けを皮切りに、会話はドンドンと深まって行った。

老木シキミは、しばし、(そうだなあ〜)と、思い出そうとする仕草。そして、語り始めた。

○私が、お蝶に会ったのは、もうすぐ梅雨が明けょうとしていた、小雨の降る日であった。ふと気が付くと、雨を避けて、私の葉隠れに止まっている蝶がいる。それが、私とお蝶との出会いだった。お蝶は、悩み事を抱えた深刻な表情である○

小蝶は、(母は、どうして.そんなに深刻な顔をしていたのでしょう)と、微かに呟く。老木シキミは、(それがな〜)と、思い出そうとする仕草を。

○この世に出てくる時、幾つかの道(選択肢)が、用意されていたらしい。それは、人間、動物、植物、爬虫類、微生物、・・・・・・等など。その時、お蝶は、昆虫の蝶、アサギマダラになる道を選んだ。悩み事とはその選択だった。

お蝶の悩みは非常に深かった。思いあまって、この切立った、断崖絶壁から、身を投げょうとしていたんだよ。

私は、約700年余り、数知れぬ命の生き様を見てきた。その結果として、確かに、悟ったことが在る。お蝶に、そのことを、言って聞かせた。

⚪そなたが出てきた元の場所(あの世)は、総ての命が、平和に平等に暮らす、素晴らしい所だ。今ここで、そなたがみずから死(肉体の)を選び、あの世に戻ろうとするのは、貴女の自由。自らの責任で選択出来る自由な権利でもある。

然し、急ぐ事は無い。もう少し、この世の様々な事を、味わい尽くしてからで、良いのではないか。そこには、限りなき歓びが潜んでいる。

貴女には、是非、それを見つけてもらいたい⚪

と、私は、お蝶に、教えてあげたのさ○

小蝶は、老木シキミの語る、母のエピソードを聞いて、お蝶の心の迷いと、その後、生き抜いた元気の源が、少し分かった様な気がした。




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