Nicotto Town


キラキラ集め報告所


ファイブスターズ(仮)・2

この物語は、剣の世界の
   そして、知られざる地での、冒険者達の戦いの記録である。

時は流れて-新王国暦521年。

新しい年を迎えるこの日は世界規模で祝われる日である。
そうでないのは、戦続きで疲弊している小国か、
暗黒神ファラリスを国教としている“混沌の国”ことファランディアぐらいだろう。

そして、ここ“賢者の国”イルミナも例外ではない。
深夜であるにもかかわらず、町はあちこちから歓声が聞こえ、
祝い酒の勢いで破目を外す者達もいる。
更にたちの悪い事に、本来、それを取り締まる警備兵の一部まで同調する始末。
もっとも、その穴はファリスの神官戦士達が埋めるので問題はないのだが。

そんな町の喧騒を余所に、一人の少女が姿見の前で静かに身支度を整えていた。
「…これで、良し」
ファリスの聖印である光十字が刺繍された、真っ白いサーコートを纏った、
鏡に映る自分の姿を見て、そう呟きながら部屋を出た。

彼女が行く先は、ファリス高司祭・フレイヤの私室である。
「おか…いえ、マザー・フレイア。ファリシアです」
「お入りなさい」
扉を叩いた少女の声に、扉越しから優しさと厳かさを兼ね備えた声が聞こえた。
「失礼します」
その声に応じて、ファリシアは部屋の中に入った。


「お待たせしました。マザー・フレイア」
「良く似合ってますね。…本当は私のを着せたかったのですけど」
安楽椅子に座っていたフレイアは、そう言って軽く表情を緩ませる。
以前、ファリシアは成人を迎える時、この義母のサーコートを身に着けたかったのだが、
体格が合わなかったので断念し、彼女の体格にあわせて新調したものである。

「…とうとうこの時が来ましたか。私としては貴方をずっと傍に置きたかったのですが…」
かつてファリスの神官戦士でもあったフレイアにとって、
ファリシアはまさに娘と言って良いほどの存在だった。
フレイアは彼女を、我が子のように慈しみ、
他の信者と同様に、厳しくも優しく平等に接し、育てたのだ。

「あの…マザー・フレイア、如何致しましたか?」
「…失礼。昔を思い出しましてね」
思わず遠い目をしていたのだろう。
フレイアは内心苦笑しつつ、咳払いを一つした後、厳かに告げた。
「今日から貴女はファリスの神官戦士です。
 神官戦士の務めはわかっていますね?」
「はい。『光の下では人は皆平等』という教えを皆に示す事。
 そして、邪悪なるものから人々も守るために戦う事です」
よどみなく答えるファリシアに、フレイアは感慨深げに頷いた。
「その通りです。
 しかし、その道は果てしなく遠く険しいものです。
 ですが、希望を捨てず、命ある限りその道を進むのです。
 そうすれば、必ず聖ファリスは貴女を救うでしょう」
と言ってから、椅子から立ち上がって愛娘をそっと抱きしめた。
「マザー・フレ…」
「今はいつも通りで呼んで構いません」
「え、あ…お義母様?」
「…本当は愛する娘を手放したくない。
 この神殿で一生を終えさせても良いのではないかと何度思ったことか…」
頭を優しく撫でながら、フレイアは言葉を続ける。
「…でも貴女はもう大人です。いつまでも親の下に置くわけにはいかないのです。
 貴女はこれからは辛い思いをするかもしれませんが、
 それに負けないよう頑張るのですよ」
「お義母様…」
その言葉を、ファリシアは深く胸に刻み込んだ。

「…ほんの少しだけ目を瞑りなさい、シスター・ファリシア」
「あ、は、はい」
ファリシアは言われるままに目を閉じた。
だが、義母の微かな、鼻をすする音を聞いてしまった。
「…お義母様?」
「もういいですよ」
目を開けた先には、もういつもの表情に戻ったフレイアの姿が映っていた。
「…」
恐らく泣いている姿を見られたくなかったのか?
ファリシアはそう思っていた。

「本来ならすぐ貴女に使命を言うところですが…」
フレイアは窓際に移動して、窓の外の光景を眺める。
空には月が明るく輝き、町の所々にも光が見える。
そんな光景を見て思わず苦笑しつつ、
「今夜はもうお休みなさい。
 その使命は明日、改めて伝えます」
「わかりました。それでは失礼致しました」
ファリシアは一礼して、フレイアの部屋を出た。
「お休みなさい、シスター・ファリシア。良い夢を」
というフレイアの言葉を背にして。

自室に戻り、寝巻きに着替えてからファリシアはフレイアの言葉を思い出す。
『貴女はこれから辛い思いをするかもしれませんが…』
「それなら十分してるわよ」
ベッドに身を投げたファリシアは思わず呟いた。

過去に何度か布教のために神殿の外に出たことがあった。
その度に、町の人々は、自分に対して奇異の目を、
そして、「“取り替え子”を育ててる変わり者」と言う陰口を囁かれていた。
自分はともかく、フレイアの事を悪く言うのは許さない。
だが、『光の下では人は皆平等』という神の声を聞いた彼女はこう付け加えた。

「大丈夫。私はお義母様の娘よ。周りに負けないよう頑張って見せるわ」

アバター
2010/04/25 00:03
 この世界のハーフエルフの成長速度は、人間とほぼ同一と考えて良さそうですね。
 彼女が受ける使命とは…。 混沌の国との絡みに期待です
アバター
2010/04/19 01:16
成長したファリシアのこれからが楽しみです。
ハーフエルフの神官戦死、それもファリスのならば、苦労もひとしおでしょうが。



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