「くたばれ！似非教祖ッ！」
チャーリーは盾を捨て、両手で渾身の力を込めた一撃をクリルに与える。
「グハッ！？」
鎖鎧であるにもかかわらず、クリルが受けた衝撃はあまりにも大きかった。
だが。
次の瞬間には不気味な笑みを浮かべ、暗黒語を唱えだす。
「いけない！その呪文はっ！」
「もう遅い！我が神ファラリスよ。忌まわしきこの者から光を奪え！『ブラインドネス』！」
ファリシアの警告も空しく、クリルは剣の切っ先をチャーリーの肩口に当てる。
「うわッ！？目が、目がァッ！」
突然視界が真っ暗になったチャーリーは思わずうろたえる。
しかしそんな彼を助けようと、周りから声が飛び交う。
「落ち着いて！私もすぐにそっちへ！」
目の前の配下に苦戦しつつも、ファシリアが言う。
「取り乱すな！私が奴の動きを伝える！それに従え！」
マートが続く。
「ゴメン！アタシはこの子を守らなきゃ…」
もどかしそうにリルルが言うと
「少しだけ辛抱してくれ。ワシらはまだ役目が終わっとらんからの！」
バルガスは鬱陶しそうに言って、目の前の敵に一撃を喰らわせた。

「…闇の精霊よ、我が指し示す者の心を削れ！『シェイド』！」
ほんの一瞬だけ場が暗くなったと思いきや、
次の瞬間には、クリルが額に脂汗を浮かべていた。
「…貴様、小癪な真似を…っ」
「戦乙女の精霊の呪文を使った時点で気づくべきでしたね」
己の傷を癒すため暗黒語を囁くクリルに、エルシアは涼しげな表情で受け流す。
「…まぁいい。貴様はこいつを鱠斬りにしてからだ」
『キュア・ウーンズ』で傷を癒したクリルは、暗闇に閉ざされているチャーリーに剣を向ける。
（…愚か。次で終わりますね）
エルシアは哀れみを込めつつも、次に唱えるべき呪文を既に決めていた。
クリルと配下とが傷を癒し、バルガスが何とか打撃を与えた後、再び戦況はファリシア達に傾く。

先手を取ったのはエルシア。
彼が先程と同じ呪文を唱え、やはり一瞬場が暗くなる。
再び光が戻った時、クリルは既に倒れていた。
『シェイド』を立て続けにぶつけられた為、気力が尽きたのである。
「な、何だ？今の音は！？」
「落ち着いて。貴方を斬ろうとした不埒者が倒れただけですよ」
慌てるチャーリーに対し、エルシアは冷静に答える。
「「く、クリル様！？」」
突然の事に慌てふためく配下たちに、
「…退きなさい！」
「お主らの相手はこっちじゃぞ」
ファリシアとバルガスの攻撃とが決まり、バルガスの相手は床に倒れる。

「私が彼を助けます！」
ファリシアはチャーリーの傍へと向かおうとするが、
「せめて貴様だけでも！」
クリルの配下が彼女の背に刃を振り下ろす。
刃は当たったものの致命的には至らず、そして、
「残念じゃったの」
ファリシアの代わりにバルガスがその配下の相手をすることになった。

「聖ファリスよ、彼の者の闇を払い給え！『キュアー・ブラインドネス』！」
「…うッ」
今まで暗闇に閉ざされていたチャーリーの視界に光が戻ってきた。
いや、正しく言えば、元のように普通に物が見えるようになった。
「大丈夫…ですか？」
「…それはこッちの台詞だ」
己の呪文が効いているか不安げに尋ねるファリシアを余所に、
チャーリーは半ば呆れ気味に答える。
幼い頃から戦場で生きてきた彼にとって、
彼女がいかに傷ついてるかは一目で分かる。
「…アンタは自分の傷を癒しとけ。後はオレがやる」
そう言って、ただ一人だけ残っている配下の元へ向かっていく。

もはや勝負は付いた。

「…どうですか？」
「んー…多分毒か何かで眠らされてるけど、命に別状はないようね」
決着が付くや否や、ファリシアはすぐにリルルの元へ駆けつける。
リルルは生贄にされかけた少女の様態を見て、そう答える。
「お姉ちゃん。毒、消せる？」
「いえ、そこまでは流石に－」
二人が言葉を交わした時－

ドッ！

一際鈍い音が場に響く。
その音に、皆の注目が集まる。

「…」
場が静まる中、チャーリーはクリルの首を刎ね、
淡々と首元を縄で縛り小袋に詰める。
「…敵将の首を刎ねるなんざ、戦場じゃ当たり前の事だ。それに－」
静まり返る一行を余所に、チャーリーはそう呟いた後、
「－こんな似非教祖に、アンタは手を汚すべきじゃねェ。
　…穢れ役は、オレ一人で、十分だ」
チャーリーの目はファリシアに向けられていた。
ファリシアはただ黙って見つめ返すだけだった。

「…でも当然の報いかも、ね」
重い空気を払おうとリルルが呟く。
「…そう言えば確かに彼は『頭上にあるファリス神殿に～』と」
「そーゆー事。さ、後はそのファリス神官たちに任せて帰ろう。ねっ」
そう言ってリルルはクルリと一回りしてウインクする。
その仕草に、一行はまるで心を癒される気分になった。

そして、少女と拘束した配下とを連れて、ファリシア達は【地下神殿】を後にした。