ファイブスターズ(仮)4-8
- カテゴリ:自作小説
- 2010/05/09 16:05:22
「…まさかそこまで深刻な事になってたとは…」
ファリス神殿へ帰還し、一行を迎えたのは、マザー・フレイアであった。
事の顛末を報告する為、「特別に」と、ファリシア達は、
イルミナ・ファリス神殿の最高司祭であるフレイアとの面会を許された。
彼女の部屋は、かのクリルと似てはいるが、調度品はどれも簡素で、
他は窓際の安楽椅子とその傍らにある絵画が目立つ程度だ。
-何の絵だろう?-
一見、六人の男女が笑顔で並んでいる光景の絵をよく見ようとしたチャーリーの行動は、
フレイアの威厳ある声で遮られた。
「赤い星のチャーリー…でしたね。その袋をこちらへ」
「何故俺を?」
「『麗しの我が家』亭の主とその仲間達とは顔なじみですので」
穏やかな、しかし威厳を備えている笑顔でフレイアは答える。
「…正直、気が引けるけどな」
些か戸惑った口調で、チャーリーは己の手で刎ねたクリルの首が入った袋を手渡す。
「…これは貴方が?」
「ああ」
袋の中身を一瞥した後、眉一つ動かさず静かに問うフレイアに、チャーリーは即座に頷く。
「…ご苦労様でした。後始末は私達が行いますのでご心配なく。
皆様には一人六百ギメル支払います」
フレイアはそう言って、袋の中の首に向かって神聖語を唱えた後、
「シスター・ファリシア。貴方だけは席を外しなさい」
「だけは」の部分を強調し、咳を一つつきフレイアは義娘に部屋を出るよう促す。
「畏まりました。マザー・フレイア」
ファリシアは躊躇なく義母の部屋を出た。
「…皆さん、もう少しこちらへ」
フレイアは窓際の安楽椅子に腰掛けて、チャーリー達を手招きする。
「…ご心配なく。今の私は、ファリス最高司祭ではなく一娘の母です」
そう言う彼女の表情は、先程までの威厳は消え、変わりに愁いを帯びた笑みとなる。
「この度は娘の使命に手を貸していただき、心から感謝します」
軽く頭を下げるその姿に、一行は驚きを隠せなかった。
「司祭殿…」
思わずバルガスはそう語りかけた。
顔を上げたフレイアは苦笑交じりに話を続ける。
「…これからも貴方達は娘と共に?」
「言われなくてもそうするよ。なッ?」
チャーリーは周りを見回すが、反対する者は一人もいない。
「…ならお願いがあります。娘をこれからもよろしくお願いします。…ただ」
「ただ?」
「娘と貴方たちとに命の危機に晒された時は、娘を助けようなどと考えないでください」
「おい?!一体何を言い出し…ッ」
思わず抗議の声を上げるチャーリーは息を呑んだ。
フレイアは静かに涙を流していた。
「…貴方たちにも家族は…故郷はあるはず。
そして、娘の為に己の命を落とすのは…愚かな事です」
戸惑う一行を余所に、フレイアは言葉を続ける。
「愛する者を失う苦しみ、哀しみは…私だけで十分です」
そして懐からハンカチを取り出し、静かに涙を拭った後、
「…娘にはこの事は幼い頃から厳しく教えました。
例え臆病者と罵られても、己の命を第一に考えなさい、と」
フレイアの周りが、重い沈黙が包まれる。
それを破ったのはチャーリーである。
「…フレイアさン、で良いよな?アンタの言いたい事はわかッた。
けどな。アンタ、一つだけ間違ッるぜ」
「?」
「他はどう思ッてるか知らねェし、オレは戦う事しか能がねェけど、
そういう状況になッたら考えるね。
“どっちも助かる方法”をなッ」
「そうそう。アタシ達、結構強かなのよね~♪」
チャーリーの不敵な笑みに、リルルが一回りして答える。
「それ以前に、そういう状況に陥らないよう立ち回れば済むだけの事」
「そのためにワシらはただ鍛えるのみ!」
マートが口髭を撫でながら静かに答え、バルガスが力強く続く。
「…“答え”が見つかるまで死ぬ訳にはいきませんし」
エルシアは小さく肩を竦めて話をしめる。
「皆さん…」
フレイアはそんな彼らを頼もしく思った。
そして。
(ファリシア。貴女は幸せ者ですよ。素晴らしき仲間達に出会えたのですから)
心の中でそっと囁いた。
一方で。
「シスター・ファリシア」
フレイアの部屋を出たファリシアを呼び止めたのは、一行を応接間で迎えた神官戦士だ。
生贄にされかけた少女を連れて。
「ブラザー・トーマス。彼女は-」
「どうしても貴女に礼が言いたいそうで」
微笑を浮かべて彼は、少女をファリシアの元へと向かわせる。
「お姉ちゃんが私を助けたって?」
「え、ええ。私だけではないのですが…」
無邪気に問いかける少女に、ファリシアは困惑しながらもそう答えた。
すると。
「ありがとうー」
少女はファリシアに抱きついた。
(…神よ。このような幸せを与えてくださり感謝します)
少女の頭を撫でながら、ファリシアは感慨深くそう思った。
こうして、ファリシア達は一つの戦いを終えた。
だが、彼女達の戦いはこれからも続くのである。
-続-
それぞれの第1幕の終劇、お疲れ様でした。
頼もしい彼らの活躍を、リアルタイムとは少し遅れて
読ませてもらう事にしましょう。
(…神よ。このような幸せを与えてくださり感謝します) ナンテネ
>麗しの我が家亭で宴会ぐらいはいいでしょうにw
…それもそうですね。ネタの提供感謝します。
>最初の冒険譚、お疲れ様でした。
最後まで見ていただきありがとうございました(礼)
いや全くです(苦笑)。<お疲れ
所謂『第一話』でここまでかかるとは思ってませんでしたが(汗)。
>次の冒険まで、しばらく冒険者たちに休息を。
…実はもう既に『第二話』の構想はできてます。
既にレベルアップはしてますので、後日、そのデータを公開します。
…冒険者は休息する暇はないのですよ(邪笑)。
次の冒険まで、しばらく冒険者たちに休息を。