ファイブスターズ(仮)4+α・2
- カテゴリ:自作小説
- 2010/05/17 04:59:13
「言ったはずですよ。私は訳ありだと」
一行の目線を一身に受けてエルシアは苦笑した。
「ちちっ…!?」
つい余計な事を口走りかけた彼は慌てて下を向いた。
(父上達がユーリアにあんな仕打ちをしなければ、私もこんな事はしなかったのに…)
心の中で呟くエルシアの表情には苦悩の色が浮かんでいたが、
一行に面を上げた時には、普段の穏やかな顔に戻っていた。
「…つまり、貴方、要は家出少年?」
「そう言う事になりますねぇ」
「じゃあ両親とかが連れ戻しに-」
「それはありませんよ。父上達は“掟”に忠実ですから」
リルルの問いに、エルシアは皮肉を交えて断言した。
「そういう君は何処出身だね?」
詮索を止める意味も兼ねて、マートがリルルに話しかける。
「え、アタシ?アタシはもちろんグラリフかな」
「【草原の国】だな。話は聞いたことがあるが…」
「ウン。生まれた時からずーっと一緒だったよ」
「では、成年になったから親離れしたと言う訳か」
「そうよ。『一人前になったら再会しよう』と約束して、ね」
「じゃあアンタは俺と似たようなもンだな」
二人の会話に、チャーリーが割って入った。
「俺はカインから。そしてそこの傭兵団で育ッたンだ」
「カイン?西にある【湖の国】か。…どうりで君の共通語には若干訛りがある訳だ」
「訛り?」
「だが、私のような者でなければ気づかない位だ。気にしなくていい。
…しかし、あの国は近年、国力が疲弊してると聞いたが…」
「ンな事ァ俺は知らねェよ。
ただ親父達から『手柄の一つでも立てて来い』ッて言われてさ」
そう言ってチャーリーは肩を竦めた。
「ならその両親に感謝することじゃな。
その手柄とやらを立てるには、この国は最適じゃぞ!」
バルガスがチャーリーの腰をバシンと叩く。
「…そういうアンタは何処出身だい?」
「ワシは西のエスト山脈にある名もない村じゃよ。
そこで幼い頃からずっと鍛冶を営んでいたのじゃが…」
「その時に神の声が聞こえたのですね?」
「如何にも」
今度はファリシアが話の輪に入り、バルガスは力強く頷く。
「じゃが、今回の件でワシもまだまだ未熟だと痛感した。
皆を鍛えるのも勿論じゃが、己自身も鍛えないとな!」
「アタシを巻き込むのはカンベンしてよね、オ・ジ・サン♪」
一人意気込むバルガスをリルルが冷やかす。
「なんじゃと!?ワシはまだ33じゃ!」
「髭生やして、自分を『ワシ』なんて言うからよ。
アタシにとっちゃ十分オジサンね」
「二人ともそれ位にしなさい」
下瞼を下げて舌を出すリルルと、今にも怒り出しそうなバルガスを
ファリシアは慌てて止めに入る。
「リルルは人を冷やかすのも程ほどになさい。
そしてバルガスは心も鍛えるべきですね」
「はぁーい」
「…確かにファリシア殿の言うとおりじゃの」
素直に引き下がる二人を見て、マートは心の中で感嘆した。
(噂話で聞いた程度だが…とても“取り替え子”とは思えない振る舞いだな。
…流石は【黒の聖女】に育てられただけの事はある)
そうこうしている内に、個室に飲み物やら料理やらが運ばれてきた。
山鳥の香草焼きにチーズクラッカーやクッキーなどのつまみも一緒に。
「…私は注文したのはチーズクラッカーだけなのだが?」
「マスターからのサービスですっ」
怪訝そうに尋ねるマートに、ミナは笑顔で答えた。
「やったー♪アタシ甘いものだーいすきっ♪」
嬉々としてクッキーを早速一つ頬張るリルルに、
バルガスは先程のお返しと嫌味の一つでも言おうとしたが、
「それじゃあ、良いところで乾杯といこうか」
「そ、それもそうじゃの」
チャーリーの一言で思いとどまった。
「それじゃあ…オレ達の勝利と未来を願って-乾杯!」
「「かんぱーい!」」
チャーリーの音頭で、皆が杯を交わし、それぞれの飲み物で喉を潤す。
「よーし、マスターからの奢りだ。皆飲み明かすぜッ!」
その言葉をきっかけに、ある者は早速エールを追加注文し、
ある者はワインと葡萄ジュースとを片手に語り合い、
またある者は、料理とつまみとの味を堪能し、
そしてある者は、
ツケの代金が増えるのではないかと若干不安に思ったりもした。
-そして夜が明けた。
「…あんなに盛り上がったんですもの。仕方ないですね」
初めて口にした酒-それでも林檎酒を薄めたものを一杯だけ-のせいで、
痛む頭を抑えながら、ファリシアは溜息混じりにそうボヤいた。
“借用書”の金額が三千から五千ギメルへ書き直すようバーテンに言われたからだ。
「…くどいようだが、俺の奢りだから深く気にすることは-」
「いいえ。ファリスの信者として踏み倒すわけにはいきません」
バーテン-フォックスの情けを、断固として遮ったファリシアの顔を見て、
フォックスは処置なしと言いたげに肩を竦め、首を横に振った。
こうして、冒険者達の休息は終わった。
数日後に新たな依頼が舞い込むことも知らずに-。
これで次回の冒険に備え…られたのかなw?