Nicotto Town


キラキラ集め報告所


ファイブスターズ(仮)5-1

この物語は、剣の世界の
   そして、知られざる地での、冒険者達の戦いの記録である。


『クリルの教え』事件から一月余りが過ぎた頃。

イルミナの象徴ともいえる建物の一つ。
『三角塔』とも『賢者の学院』とも呼ばれる、魔術師ギルドの一室で、
一人の黒いローブを纏った老人が、たった今己が作り上げた品を高々と頭上に掲げた。

「できた…儂の苦労して作り上げた物が…ついにできあがったぞぉ~!」
とても齢を重ねたとは思えないほどの声で、その老人は浮かれていた。
書物の乱雑した部屋の片隅では、一匹の黒猫がそんな主を呆れたように見つめている。
彼のいる場所や猫を飼っている事から、彼が高位の古代語魔術師だとは容易に想像できるだろう。
しかし-。
古代語魔術師の持つ武器はほぼ杖であるが、
彼が手にしているその物は、杖というには余りにも無骨すぎた。
その“杖”は、棍棒のように太く、捩れてて、
あちこちに魔法文字が書きなぐっている-ように見える-シロモノだった。
とても、導師-高位の古代語魔術師は大抵そう呼ばれる-が作った物とは思えない。
が、彼はそんなことを全く気にせず言葉を付け加えた。
「…しかし困ったのう。折角作ったものを使う機会がないとは」
だが、次の瞬間には何かを思いついたらしく、部屋の奥にある机へと向かいだした。
そして、引き出しから小さな二十面体の賽を取り出して無造作に放り投げた。
「出目は13か…ふむふむ、そうなるとだな…」
彼は机の上にある、彼の弟子の名前が書き連ねている帳簿を指でなぞる。
「…『マーティアス・トーラント』か。よし、彼奴にこの杖の効果を試させてもらおう」
彼の使い魔でもある黒猫は、
「また始まったよ」とでも言いたげに欠伸を一つした後、丸くなって眠りだした。


その数刻後。
『麗しの我が家』亭に一人の若者が訪れた。
「トーラント先輩。探しましたよ」
白いローブを纏ったその若者は、カウンターでワインを嗜んでいるマートに声をかけた。
「おお、アベルではないか。会うのは私が卒業して以来だな」
「あの…お知り合いの方ですか?」
「うむ、私の後輩だ」
傍らに腰掛け、小さく声をかけるファリシアに、マートはその後輩に目を向けたまま答える。
「そろそろ君も古代語魔術師になる為の試験が控えてるそうだな」
「いえ、先輩に比べたら自分なんて…」
首を振るアベルにマートは力強く肩を叩く。
「そんな弱気な言葉を口にするな。君は優秀だ。
 この私が保障する。だからもっと自分に自信を持て!」
「あ、は、ハイッ!」
そんなやり取りを、ファリシアは思わず昔の自分を重ねて見ていた。

「…ところで。アージェンタ師匠の方も相変わらず元気かな?」
マートの言葉で、アベルはハッとした後、本当に言いにくそうに話を切り出した。
「…実は、その師匠から貴方に頼みがあるそうなんです」
アベルのその申し訳なさそうな言葉に、話を聞いていたバーテンは、
お気の毒様とでも言いた気な表情を浮かべていた。


「…諸君、非常にに心苦しいが頼みがある。
 私と一緒に『賢者の学院』まで来てくれないかな」
アベルが帰った後のマートの表情は、まさに悲壮感で一杯だった。
「ンだよ。そンな不景気そうなツラして」
「そうです。いつもの貴方らしくないですねぇ」
チャーリーの言葉に、エルシアも同意する。
「…詳しくは師匠が話すが、新しいマジックアイテムのテストをしてほしいそうだ」
「マジックアイテムは、今の時代では作れんはずじゃぞ?」
「オジサン、共通語魔法(コモン・ルーン)も知らないの?」
リルルの冷やかしに、バルガスはムッとして「それぐらいは知ってるわ!」と怒鳴る。
そんな二人を宥めながら、ファリシアが話をしめる。
「…とにかくその師匠に会って話を聞きましょう。全てはそれからです」
「すまない」
「ではバーテンさん。私達は一度『賢者の学院』へ行ってきます」
ファリシアはそう言って、マート達を連れて店を出て行った。

彼女達が立ち去った後、バーテンは気の毒そうに呟いた。
「やれやれ。あの“徒労人”の“犠牲者”がまた増えるのか。
 あの爺さんも本当に懲りないな」

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2010/06/06 12:26
マッドサイエンティスト風味な導師ですかw?



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