Nicotto Town


キラキラ集め報告所


フェイトブレイカー! 第一章4

【調停者】ライブラとの面会を終え、アロウは賢者の学院を後にした。
ふと空を見上げると、もう日は暮れ始めている。
「さて。行くとするか」
アロウは、ライブラから渡された地図を手に、件の幽霊屋敷へと足を運んだ。


「幽霊屋敷と呼ばれてる割には貧相な外見だな」
町外れにあるその館は、アロウの言うとおりだった。
館を覆う壁はあちこちひび割れ欠けている。
しかし、錆びた門を開けて庭へ踏み込むと、若干の違和感を感じた。
「…妙だな。普通なら雑草が生え放題なのだが」
庭を一回りした後、アロウはそう呟いた。
仮にも人の住んでいた館である以上、庭には芝生や植木があるはず。
だが、この庭はそれらは見当たらず、せいぜい小石や朽ち果てた木がいくつかある程度。
「…なるほど」
《開錠》の呪文を唱え屋敷の中に踏み入れたアロウは、
その違和感が濃密に感じ取れた。
目を伏せ耳を澄ましてみると、微かな呻き声とともに、様々な光景が浮かび上がった。

(苦しい…)
(どうして…)
それは、子宝に恵まれず死産を繰り返し、唯一残った子供さえ早死にし、
更に妻さえ失って、自ら命を絶った貴族とその家族の声。
(何でこんな目に…)
それは、商売が上手くいき、一時は富豪となったものの、
たった一つの失敗のせいで全てを失った商人の声。
(誰か…)
(助けて…)
それは、興味本位で館に忍び込んで、その後、原因不明の病で亡くなった子供達の声。

「確かにここは呪われた館だ。負の生命力に満ち満ちている」
一階・二階を歩き回り、最後に地下室へと辿り着く。
「そしてその源は…ここだな」
扉を開けると、そこはがらりとした広間だった。
一見何もない部屋のようだが、アロウははっきりと感じ取った。
「やはり貴様が原因だったか。詐欺師が」
(俺のせいで!俺のセイデ!俺ノセイデ!オレノセイデミンナガ!)
アロウが呟くと、部屋中からあちこちと怨念の声が聞こえてくる。
恐らく、ライブラが言っていた錬金術師の弟子の声だろう。
「憐れな…もう貴様の師も娘もこの世にはいない」
アロウは目を伏せて、並の人間には理解できない呪文を唱えた後、
「返れ、貴様の行くべき場所へ。己を責め続けるのはもう終りだ」
両手を広げて目を開くと、その部屋から声が聞こえなくなった。
「…もうこれでこの館が幽霊屋敷と呼ばれる事もなくなるだろう」
この部屋を中心に満ちていた負の生命力を、
己の糧へと変えて吸収したアロウは、満ち足りた表情で一息つくと、
マントから等身大のパペットを取り出して指を鳴らした。
すると、パペットはまるで意思でも宿ったかのように立ち上がった。
「…スケアクロウ。まずはこの館の手入れだ」
再び指を鳴らし、何処からともなく衣服を取り出しパペットにそれを着せた後、
僕(しもべ)を連れて館を出た。

「…前言撤回。それは明日にしよう」
夜空を見上げてアロウは溜息混じりにそう言った。
今夜は新月。
夜空を瞬く星々に加え、町の方にも所々から灯が燈っている。
「なるほど。これがイルミナと呼ばれる所以か」
町の灯の中には、炎が照らすそれだけでなく、
魔術による灯も方々に見受けられる。
昼の時にも劣らぬ輝きが、そこにあった。
「…だが奴は間違いなく来るだろう。
 来ないにしても、何らかの手を打つはず」
その輝きを見て、アロウはまだ見ぬ“満月の王”の姿を思い浮かべ、拳を握り締めた。

その後、数日間はアロウは屋敷の手入れに忙しかった。
まず地下室を己のねぐら-棺桶と、書物などを置き、
本棚や床に魔方陣を描くための材料を求めて街中を歩いた。
更に、寂れた外見を直すため、何人かの職人を雇い入れもした。
「…旦那。貴方は…大丈夫ですよね?」
ひび割れた壁を直しながら、ある職人がアロウに訪ねた。
「何がだ?」
「ここは曰くつきの館ですよ。幾人もの主が謎の怪死をとげたりとか-」
「それなら問題ない。私が主である以上はな」
不安げに言う職人の言葉を、アロウは断言して遮った。
「…とにかく気をつけてくださいよ」
職人はそう言って再び作業に取り掛かった。
「気遣い、感謝する。礼は弾むぞ」
その様子を見てアロウはにこやかにそう言った。

そして。
今やアロウの館は、かつて幽霊屋敷だの呪いの館だのと呼ばれていた面影は、
もうすっかりなくなるほどの佇まいとなった。
同時に、地下室の研究所も完成した。
「長いようで短かったな。ここの整備も」
部屋の片隅にある背もたれ付きの椅子に深々と腰掛け、
ローズティーを一杯飲んで一息ついた。
懸念していた“満月の王”の襲撃なども起こらなかった。
「…まだ油断はできないが、まずは一安心といったところか」
何故だかわからないが、今のアロウの気分は良い。
「“執事”。留守番を頼む」
傍らに佇むスケアクロウにそう言うと、アロウは館の外へ出た。

半月が浮かぶ夜空。
今度は庭の番犬を勤める黒犬-ハウルに声をかける。
「散歩に行ってくるよ」
アロウは背に翼を生やして夜空へ飛び立った。

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2011/10/06 13:38
いつ読んでもおもしろいし引き込まれる^^

最初からまた読んじゃったぁww

どきどきわくわく^^

アロウステキやん^^



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