フェイトブレイカー! 第一章4
- カテゴリ:自作小説
- 2011/10/06 12:48:50
【調停者】ライブラとの面会を終え、アロウは賢者の学院を後にした。
ふと空を見上げると、もう日は暮れ始めている。
「さて。行くとするか」
アロウは、ライブラから渡された地図を手に、件の幽霊屋敷へと足を運んだ。
「幽霊屋敷と呼ばれてる割には貧相な外見だな」
町外れにあるその館は、アロウの言うとおりだった。
館を覆う壁はあちこちひび割れ欠けている。
しかし、錆びた門を開けて庭へ踏み込むと、若干の違和感を感じた。
「…妙だな。普通なら雑草が生え放題なのだが」
庭を一回りした後、アロウはそう呟いた。
仮にも人の住んでいた館である以上、庭には芝生や植木があるはず。
だが、この庭はそれらは見当たらず、せいぜい小石や朽ち果てた木がいくつかある程度。
「…なるほど」
《開錠》の呪文を唱え屋敷の中に踏み入れたアロウは、
その違和感が濃密に感じ取れた。
目を伏せ耳を澄ましてみると、微かな呻き声とともに、様々な光景が浮かび上がった。
(苦しい…)
(どうして…)
それは、子宝に恵まれず死産を繰り返し、唯一残った子供さえ早死にし、
更に妻さえ失って、自ら命を絶った貴族とその家族の声。
(何でこんな目に…)
それは、商売が上手くいき、一時は富豪となったものの、
たった一つの失敗のせいで全てを失った商人の声。
(誰か…)
(助けて…)
それは、興味本位で館に忍び込んで、その後、原因不明の病で亡くなった子供達の声。
「確かにここは呪われた館だ。負の生命力に満ち満ちている」
一階・二階を歩き回り、最後に地下室へと辿り着く。
「そしてその源は…ここだな」
扉を開けると、そこはがらりとした広間だった。
一見何もない部屋のようだが、アロウははっきりと感じ取った。
「やはり貴様が原因だったか。詐欺師が」
(俺のせいで!俺のセイデ!俺ノセイデ!オレノセイデミンナガ!)
アロウが呟くと、部屋中からあちこちと怨念の声が聞こえてくる。
恐らく、ライブラが言っていた錬金術師の弟子の声だろう。
「憐れな…もう貴様の師も娘もこの世にはいない」
アロウは目を伏せて、並の人間には理解できない呪文を唱えた後、
「返れ、貴様の行くべき場所へ。己を責め続けるのはもう終りだ」
両手を広げて目を開くと、その部屋から声が聞こえなくなった。
「…もうこれでこの館が幽霊屋敷と呼ばれる事もなくなるだろう」
この部屋を中心に満ちていた負の生命力を、
己の糧へと変えて吸収したアロウは、満ち足りた表情で一息つくと、
マントから等身大のパペットを取り出して指を鳴らした。
すると、パペットはまるで意思でも宿ったかのように立ち上がった。
「…スケアクロウ。まずはこの館の手入れだ」
再び指を鳴らし、何処からともなく衣服を取り出しパペットにそれを着せた後、
僕(しもべ)を連れて館を出た。
「…前言撤回。それは明日にしよう」
夜空を見上げてアロウは溜息混じりにそう言った。
今夜は新月。
夜空を瞬く星々に加え、町の方にも所々から灯が燈っている。
「なるほど。これがイルミナと呼ばれる所以か」
町の灯の中には、炎が照らすそれだけでなく、
魔術による灯も方々に見受けられる。
昼の時にも劣らぬ輝きが、そこにあった。
「…だが奴は間違いなく来るだろう。
来ないにしても、何らかの手を打つはず」
その輝きを見て、アロウはまだ見ぬ“満月の王”の姿を思い浮かべ、拳を握り締めた。
その後、数日間はアロウは屋敷の手入れに忙しかった。
まず地下室を己のねぐら-棺桶と、書物などを置き、
本棚や床に魔方陣を描くための材料を求めて街中を歩いた。
更に、寂れた外見を直すため、何人かの職人を雇い入れもした。
「…旦那。貴方は…大丈夫ですよね?」
ひび割れた壁を直しながら、ある職人がアロウに訪ねた。
「何がだ?」
「ここは曰くつきの館ですよ。幾人もの主が謎の怪死をとげたりとか-」
「それなら問題ない。私が主である以上はな」
不安げに言う職人の言葉を、アロウは断言して遮った。
「…とにかく気をつけてくださいよ」
職人はそう言って再び作業に取り掛かった。
「気遣い、感謝する。礼は弾むぞ」
その様子を見てアロウはにこやかにそう言った。
そして。
今やアロウの館は、かつて幽霊屋敷だの呪いの館だのと呼ばれていた面影は、
もうすっかりなくなるほどの佇まいとなった。
同時に、地下室の研究所も完成した。
「長いようで短かったな。ここの整備も」
部屋の片隅にある背もたれ付きの椅子に深々と腰掛け、
ローズティーを一杯飲んで一息ついた。
懸念していた“満月の王”の襲撃なども起こらなかった。
「…まだ油断はできないが、まずは一安心といったところか」
何故だかわからないが、今のアロウの気分は良い。
「“執事”。留守番を頼む」
傍らに佇むスケアクロウにそう言うと、アロウは館の外へ出た。
半月が浮かぶ夜空。
今度は庭の番犬を勤める黒犬-ハウルに声をかける。
「散歩に行ってくるよ」
アロウは背に翼を生やして夜空へ飛び立った。
最初からまた読んじゃったぁww
どきどきわくわく^^
アロウステキやん^^