フェイトブレイカー! 第一章6
- カテゴリ:自作小説
- 2011/10/07 15:05:16
そこはローザの寝室だった。
アロウの館の地下室と同様-否、それ以上に大きい広間で、
普通の家屋が丸々入りそうな程だ。
調度品も豪華で、天蓋つきの寝台を始め、
本棚や机といった物から、化粧台や茶卓一式といった物まで。
そして壁には何人かの男性の絵が飾られている。
もはや寝室というよりは彼女の部屋と言っても良いだろう。
「もう喋れるぞい」
老婆は窓に鍵を閉めつつアロウに声をかけた。
「そ、それよりも怪我の手当てを-」
「必要ありません」
慌てて駆け寄るローザに、アロウは手を上げて静止した。
「…何て事」
ズボンの生地こそ裂けてはいるが、大怪我のはずの傷は少しずつではあるが、
傷口が塞がるのが目に見えてわかる。
「ちょいと失礼」
今度は老婆が何かを呟いた後、アロウを見つめてこう言った。
「何と。生と負の生命力とがせめぎあっておる。
先程のあれは負の生命力が強まった結果のようじゃな」
「…それは“吸血衝動”の事か?」
「左様。…可哀相にのう。今までずっとそれに苛まされ続けておったとは…」
アロウの問いに、老婆は心底気の毒そうに頭を振った。
「お父様の言った通りだわ。『“満月の王”を追っている半吸血鬼がやって来た』と」
「お父様?」
「あっ、ごめんなさい。自己紹介がまだでしたね。
私はローザ・D・クルクローネ。
この国の王、クルクローネ家の三女です」
「私ゃ、シルフィア。
ここに仕える精霊使いであり教育係でもあるぞい」
ローザと老婆とが自己紹介しだしたので、
アロウも改めて自分の名を告げる。
「アロウは普段の通り名です。
本名はアロースノウ・バートランド」
と、アロウが自己紹介し出した時から、こちらへ駆け寄る足音が近づいてきた。
「やれやれ。まぁ無理もなかろうて。侵入者がここへ入ったからのぉ」
「侵入者?…あ」
老婆の溜息交じりの言葉に、アロウは己の迂闊さに思わず苦笑した。
「本当ならもう少しお話したかったのですけど」
ローザはそう言って窓際の一角にある花瓶に近づき、
「お近づきの証にどうぞ」
笑顔と共に、薔薇一輪をアロウに差し出した。
「あ、ありがとうございます」
アロウが照れ笑いを浮かべてそれを受け取った時。
「ローザ様!シルフィア様!ご無事ですかっ?!」
ドンドンと激しく扉が叩かれ、扉越しに怒声が聞こえた。
「さぁ、今のうちに」
ローザは窓を開け、アロウに外に出るよう促した。
「あとは私ゃらが話をつけるぞい」
わざとゆっくりした足取りで扉に近づきつつ、シルフィアも続ける。
「お気遣い感謝します。それでは」
アロウは、再び一礼して、バルコニーから夜空へ飛び去った。
「ふぅ」
館へと戻ったアロウは一息ついた。
そして地下室へ戻り、机の上に即席の花瓶を作った後、
手にした一輪の薔薇を挿して、そっと呟いた。
「ローザ…いや、王家の人だから…ローザ姫、か」
アロウは目を伏せて、花の差出人の姿を思い浮かべる。
しかし、可憐を絵に描いたような少女の顔を思い浮かべた瞬間、
それをかき消すかのように頭を左右に振った。
「止めよう、またさっきの様になる。今日はもう寝よう!」
そう言って、地下室の一角にある隠し扉を開き、
彼の寝床-棺桶へ歩み寄り、そこで横たわった。
『閉じよ』
その合言葉で蓋が閉ざされていく中、アロウもまた瞼を閉じる。
やがて意識が薄らぐ中で、彼は再びローザの笑顔を思い浮かべていた。
その一方。
半ば強引に話を押し通したローザは、
シルフィアに勧められたジャスミンティーを飲んで一息ついた。
そして数刻後。
「婆や。もう平気です、私は休みます」
「はいはい。ごゆるりと眠りなされ。良い夢を」
寝台へ向かうローザを見て、シルフィアは静かに部屋を出た。
「…アロウ。アロースノウ・バートランド」
父・リヒトから聞かされた話とは随分イメージが違っていた、半吸血鬼。
まだ幼さの残ったあどけないアロウの笑顔を、彼女もまた思い浮かべていた。
「また会えるのかしら。…ううん、嫌でも明日会うでしょうね」
ローザは自分達の話が通じたとは思っていない。
彼は間違いなく父達の前で申し開きをさせられるだろう。
アロウの身を案じつつ、彼女もまた眠りについた。
-そして夜が明けた。
日が昇りきり、町が活気付くその頃。
アロウの館に数人の兵士がやって来た。
『開け』
番犬ハウルの鳴き声で目を覚まし、その目を通じて、外の様子を伺う。
槍を手にし、硬革鎧姿の男が数名いて、その中の一人が
「この館の主よ、出てきたまえ!国王陛下からの呼び出しであるぞ!」
との声を聞き、昨夜の迂闊さを呪いながらアロウはしぶしぶ起き出した。
こんなに続けて書いて体調は大丈夫??
無理しないようにね
寒くなってきたし、風邪ひき注意ね^^v