【小説】夜中の音2
- カテゴリ:自作小説
- 2013/05/16 11:55:41
「・・・・・ろ・・」
「お・・・・た・・・・・げろ・・」
ゲロ?
「おき・・・・・ら・・・・にげろ・・・」
逃げろ?
耳元で大きな声がした。
「起きてるなら、逃げろ!」
びっくりして、飛び起きた。周りには誰もいない。どうやら夢を見たようだ。
いつのまに寝たのだろう。昨日の晩、不審な音を確認する為に夜中の1時まで起きていて、音がするので扉を開けたら何も無かった。結局、何だったのだろう。
そういえば、扉を閉めた後誰もいないはずなのにしゃがれた声を聴いた気がする。さっきの夢の声もしゃがれた声だった。
時計をみると、お昼に近い時間である。今日が休みで良かった。昼飯を調達するためにコンビニへ出かける。
部屋に戻ると、隣の102号室から男が出てきた。ここに住んで2週間以上たつが隣の人を見たのは初めてだ。なんだか酷く顔色が悪く、目の周りの隅がやけに黒くみえる。運動不足を表したような体つきででっぷりとしており、なんというか血色の悪い狸のような風貌である。
軽く会釈をして部屋に戻った。
昼飯をすませ、部屋でまんじりとしているとやはり部屋の空気が重く感じる。べっとりとまとわりつくような空気で頭が重い。
ゴロンと横になり、天井をぼんやりと眺めていたらそのまま眠ってしまった。
ふと目がさめると辺りは真っ暗になっていた。どれくらい眠っていたのだろう。片頭痛のような痛みが取れていない。寝たはずなのに逆に身体がつらく感じる。しかも、部屋中に生臭い臭いが充満している。
何かがおかしい。
ゆっくりと半身だけ起き上がって頭を振ってみたが、モヤのように霞んだ意識が晴れることはなかった。
頭をふった時に部屋の隅に干した洗濯物が目の端に入った。白いシーツが揺れている。
いや、シーツは大きすぎて干していない。バスタオルか?いや、まて昨日から洗濯してないはずだ。
頭の中のボクが叫ぶ。見てはいけない!
しかし体は、眼球は確認行動への衝動を止める事が出来なかった。そして、その事を後悔した。
揺らめいていたのはシーツでもバスタオルでもなく、白い服を着た女性であった。
首を吊って手足がだらりと揺れている。ギィ…ギィと女のからだが揺れるたびに吊った紐と何かがこすれるような音がする。
声もでず、動く事もできず、強烈な異臭と喉の渇きがボクを覆っていく。
その時、ぶら下がった女がゆっくりと顔をあげてボクの方をみた。
!!!
気が付くと、朝になっていた。カーテンを閉めていない窓から朝日が部屋の中を照らす。
部屋の中に女性の姿はなく、異臭も全くしなかった。
「夢をみていたのか…」
ボクが呟いたのと同時に部屋のチャイムが鳴った。心臓が口から出るかと思った。
開けると、隣の顔色の悪い男がいた。
「昨晩ものすごい悲鳴が聞こえたけど、何かありましたか?」
オバケを見たなんて言えるはずもなく、嫌な夢をみたのだと言い、迷惑をかけたことを謝った。
「そうですか、夢ですか…もしやその夢とは部屋の中で首をつった女が出てきませんでしたか?」
「え?そうですけど、なぜ?」
「いや、大きな声では言えないんですけどね…」
隣の男が言うのには、随分前にこの部屋で女が首を吊って自殺したと。それ以来、この部屋に住む人はみんな女の幽霊を見るといって出ていくのだそうだ。
大家には自分から聞いたと言わないでくれと頼まれた。
よく聞く話だが、自分の身にふりかかると恐ろしい。兎に角、この部屋を引き払う事にしないと。
「でも、隣の部屋がそんないわく付きの部屋でアナタは平気なのですか?」
と、純粋な疑問がわいたので聞いてみると、102号室の住人は
「ウチには出ないのですよ」
とニヤリとしながら答えた。
嫌な笑い顔であった。
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- しゅーひ
- 2013/05/16 11:56
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