Nicotto Town


キラキラ集め報告所


フェイトブレイカー!序章5

-そして。陽暦1205年9月20日

その夜、アロウは塔の屋上に出て、満月の夜空を見上げていた。
月やその周りで輝く星々。
“吸血衝動”が湧き上がる危険はあるものの、
アロウはその光景が大好きなのだ。
幸い、今日はそれは湧き上がる気配はない。
「-綺麗だな。夜空の星々も、満月も」
爽やかな秋風に吹かれながら呟いて、ふと塔の下に目線を向ける。
「?」
塔の周りは、小さな草が点々とある荒地。
そして、その入り口と真反対側-およそ20メートルほど離れたところには、
何者かがジッと塔を見つめている。
「…」
その場で誰何しようとしたが、すぐに気を取り直し、
アロウは師匠の部屋へと駆け込んだ。
「師匠。何者かがこの塔の前に居座ってますが…」
如何致しましょうと問う前に、フェムトは
「…来おったか」
と、まるで予想通りでも言いたげに銀の杖を手にし、
アロウに付いて来るよう促した。
フェムトは、合言葉ではなく魔法解除の呪文で扉の鍵を外して、二人は塔を出た。

「こんな辺鄙な場所に何の用かね?」
フェムトがその人物に呼びかけると、
フード付きの黒いローブ姿の人物は、慇懃な仕草で一礼した後でこう言った。
「お迎えに参りました。“満月の王子様”」
「…何?」
思わぬ言葉に二人は思わず返事が重なる。
そんな二人を余所に黒ローブは話を続ける。
「“満月の王”から、貴方を連れて来る様に命じられた者です」
「…名も名乗らぬ無礼者の言葉に応じる気はないな」
フェムトは静かにそう告げて、アロウがその先を付け足す。
「“満月の王”…だって?」
「はい。貴方は“満月の王”の息子です。
 我らが主は、ある目的のために、貴方を必要としているのです」
黒ローブの言葉に興味を持ったアロウは、更に問いかける。
「…もしイエスと言ったら?」
「もちろん、貴方を歓迎し、王子様として我らは貴方に従います。
 …永遠の命と共に」
「もしノーだったら?」
「力ずくで連れ帰ります。…場合によっては抹殺も-」
「だったら、ノー、だ」
「…聞こえませんね?」
「ノーだと言った!それと、私は“満月の王子”なんかじゃない!
 導師フェムトの弟子、アロースノウ・バートランドだ!」
アロウはフェムトの前に立ちはだかり、大鎌を黒ローブに刃を向けた。
「…そうですか。なら実力行使をさせていただきます」
黒ローブが腕を一振りすると、その眼前には十数体の骸骨兵と、
見たこともないような異形の獣が数体現れた。
「何と!?」
思わぬ事態に驚愕するフェムト。
「師匠!来ます!」
大鎌を構えて迎撃体勢に移るアロウ。
「お前たち-一斉にかかれ!」
眼前の僕どもに命じる黒ローブ。
こうして、満月の夜の戦いの幕は切って落とされた-。



-そして、時間はその戦いの後に戻る。


「…そんな。そんな事って…」
アロウは、師匠から聞かされた過去の事実に驚愕しつつも、
一方では、納得もしていた。
自分は時々普通の人間ではないのではないか?
アロウは、時々そんな疑問を抱いていた。
ただ、師匠の言葉が事実なら、時折湧いてくる“吸血衝動”も、
怪物に懐かれるのにも納得できる。

「……あ、アロウ。今まで黙ってすまなかった。
 お前には…儂の後継者として育てたかった…。
 それも昨夜…で終わっ…しま…たが」
「師匠!?」
フェムトの言葉に力が急激に薄れていく。
アロウは師の手を強く握り締めて、大声で呼びかけた。
「師匠!しっかりしてください!
 師匠がいなくなったら、私はどうすれば-」
「莫迦者!お前はもう大人だ!
 巣立つ時の雛鳥が、いつまでも巣にこもってどうする!」
言葉が鳴き声になりつつある弟子を叱咤するように、
フェムトは最後の気力を振り絞って言った。
「…机に儂がまとめた日記。そして紹介状をもってイルミナへ行け。
 イルミナへの地図も一緒にあるはずじゃ…」
「…はい」
「そして“満月の王”を倒せ!そうすれば…お前は【人間】になれる--」
それが、魔導師フェムトの最期の言葉であった。
「師匠?し、師匠おぉーーー!?」
アロウは、もう息をしなくなった師の身体にすがりつき、
ただひたすら泣きじゃくった。

どれくらい時間が経ったのだろう。

目を覚ますと、目の前にやはり物言わぬ屍となった師匠の身体がある。
「…」
しかし、アロウの目にもう涙はなかった。
アロウは、師の亡骸を抱え、塔の裏庭-入り口の裏側-に回った。
「…じゃあこの石碑は母さんの-」
そう呟くアロウの足元には小さな石版が埋め込まれている。
そこにはただ一言。
『強く優しかった偉大なる母、リトルスノー・バートランド ここに眠る』
「…私は墓標を作ることはできない。だからせめてこれで…」
その横に師の亡骸を埋葬したアロウは、そこに銀の杖をつきたてた。

数日後。
旅支度を終えたアロウは、自分が生まれ育った塔を後にした。
ただし鍵となる合言葉を変えて。
『満月が沈み、夜が明けるまで』

こうして、アロウの戦いの旅は始まったのである。

-血の宿命の鎖を断ち切る為に-

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2011/09/30 13:15
すごいなぁ。。。。
売れてる作家さんの小説読んでるみたいだよ^^

面白いしぃ^^
わくわくです~♪



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