Nicotto Town


キラキラ集め報告所


フェイトブレイカー! 第一章8

両開きの大きな扉の向こうは、巨大な広間だった。
天井は硝子張りで太陽の光が降り注ぎ、
大理石で出来た両側の壁には、名工の手によって作られたタペストリーが飾られて、
そして真正面-奥側の壁には、
白地に書物の前に交差した剣と杖の紋章-イルミナの国旗が下げられている。
広間は、赤絨毯の両脇に、甲冑を纏い槍を携えた近衛兵がズラリと並び、
その奥では、上品な身なり-恐らく貴族だろう-な者達が、
小声で何かを囁きあっている。
そして赤絨毯の先には立派な玉座と、それより一回り小さな椅子とが並んでいる。


まず先頭を白外套の中年、その後にアロウ。
アロウの背後には【ジェイド】が渋面のまま、それぞれ赤絨毯を進む。
「そこで跪きたまえ」
王座の手前で白外套がアロウを制すと、そのまま王座の脇へと歩み去る。
アロウは素直に片膝をついた。
「静粛に」
立派な髭を蓄え、荘厳なガウンを纏った壮年の男が口を開くと、
それまで広間の囁き声がピタリと止んだ。
「私がイルミナ国王、リヒト・M・クルクローネ6世である」
リヒトは王座に座ったまま、それぞれの紹介を続ける。
「こちらが王妃ソフィア。そちらが第一王子タプファー、そして第二王子シュタルク」
薄緑色のドレスを着た女性と先程の白外套、そして意匠を凝らした服を着た若者とが一礼する。
「そして…第三王女ローゼに第四王子レーヴェだ」
今日は若草色のドレス姿のローゼに、礼服が窮屈そうな子供-見たところ十歳くらいか-が、
やはり一礼した。
昨夜の件もあるため、アロウは極力ローゼと目を合わせないでいた。
「さて。幽霊屋敷の主よ。今日そなたをここへ招いた理由はわかるな?」
「はい。昨夜、王女の部屋に忍び込んだ事ですね」
王の問いに、アロウはその目を見つめ素直に答える。
「左様。何故その様な行為を働いた?」
「私はそのつもりはありませんでした。ただ…」
「ただ?」
「本当に、単なる気紛れで王女様がいたバルコニーに立ち寄っただけです」
アロウの言葉を聞いて、王はふとその後方に目を移す。
その先には、頭を左右に振る【ジェイド】が立っていた。
【ジェイド】は予め《嘘発見》の呪文を唱えていた。
その彼が首を横に振ったということは、アロウの言葉に嘘がないという証拠である。
「ではどうやって立ち寄った?」
「…私は吸血鬼の血を引く故に、翼を生やして空を飛べるのです」
-吸血鬼!?
その言葉を聞いて、周りがざわめきだす。
「静粛に!」
王は右手をかざして、それを制した後、再び問いだした。
「ではそれを見せてくれぬか?」
「今はできません。見えない縄で縛られてますから…」
アロウの言葉に、王はまたかとでも言いたげな表情を浮かべた後、
「【ジェイド】、彼の縄を解け」
「しかし王様、こやつは-」
「我が命令が聞けぬのか?」
王の言葉を聞いて、渋々【ジェイド】は《魔法の縄》を解除した。
「…」
腕が動けるのを確かめてから、アロウは翼を生やし、爪を伸ばして見せた。
「何と…」
「ただ、人前で見せるなと師匠や【ライブラ】導師からきつく言いつけられましたが」
そう言ってアロウは翼と爪を元に戻した。
「では何故、昨日の晩は空を飛んだのだ?」
「夜ならば誰も見られないだろうと思って」
「なるほど」
そして厳かな表情で王はアロウを問い詰める。
「そして、我が娘ローザに刃を向け-」
「お父様!それは違います!」
「黙れローザ!…今は裁判の最中だぞ」
王は娘を黙らせた後、遮られた言葉を繰り返した。
「我が娘ローザに刃を向けたそうだな?」
「それは違います!」
それまで跪いていたアロウは立ち上がって否定した。
「…刃を-鎌を出したのはその通りです。
 しかし、王女に向けたのではなく、自分を抑える為に振るったのです」
「何故かね?」
僅かに身を乗り出す王に、アロウは再び跪いて答えた。
「…私はある病を患ってます。“吸血衝動”とも言いますが」
「吸血鬼の血が混ざってる為だな」
「はい。これは不定期でいつ発生するのか、自分でも予想できないのです」
アロウの言葉に、王は再び【ジェイド】に目線を移す。
やはり【ジェイド】は首を横に振った。
「…そんな情緒不安定な者をこの国に置く訳にはいかんな」
「それだけは待ってください!」
アロウは再び立ち上がって答えた。
「私は“満月の王”と名乗る吸血鬼を討つ為にここまでやってきたのです。
 そして亡き師匠と本当の父母の敵を取るために…。
 私はこの忌まわしい血と決別したいのです!」
「…」
「ですから、どうかそれまでは…」
王の前に、アロウはひれ伏して嘆願した。

しばしの間をおいて、王は言った。
「アロウよ、面を上げい」
顔を上げたアロウに、王は僅かに表情を和らげこう告げた。
「ならその目的を果たすまで、今回の件は不問とする」
「あ…ありがとうございます!」
その言葉に、アロウは立ち上がって深々と一礼した。

アバター
2011/10/09 17:28
ふぅ~^^

いつものことながら一気によんじゃったぁ
おもしろいよ ほんとにおもしろい
それに、文章読んでるだけでその風景や情景がうかんでくるもん
私、好きだなぁ この話^^

疲れない程度に頑張ってね
楽しみにしてるからねo(*⌒―⌒*)oにこっ♪



月別アーカイブ

2024

2023

2022

2021

2020

2019

2018

2017

2016

2014

2013

2012

2011

2010


Copyright © 2024 SMILE-LAB Co., Ltd. All Rights Reserved.