Nicotto Town


キラキラ集め報告所


フェイトブレイカー! 第一章9

-王女の部屋への侵入は当分の間は不問とする-

リヒト国王の判決に、何と寛大だと言う声もあれば、
吸血鬼の血を引く怪物をここに留まらせて良いものかと言う声を囁きあいながら、
謁見の間にいた貴族達は退室しつつある。
「では父上。私達はこれにて」
タプファー、シュタルク両王子もそれぞれ一礼して退室した。

その間、国王と王妃に一人の老婆が何かを話しかけていた。
アロウはその人物に見覚えがある。
国王と王妃はお互いの顔を見合わせ頷くと、
老婆-シルフィアはローザと弟・レーヴェを連れて、アロウに話しかけた。
「良かったのぉ。夕べの件を大目に見てくださって」
シルフィアは更に言葉を続ける。
「更に、昨日の埋め合わせと言う訳ではないが、
 しばしの間、お話できる機会を与えてくれたからのぉ」
「え!?」
その言葉にアロウは驚きの声を上げる。
一方、【ジェイド】は声が大きくなるのを堪えつつも老婆に呼びかけた。
「…シルフィア様。このような輩に甘い顔をするのは-」
「例の症状なら私ゃがついておる。問題ないじゃろ?」
【ジェイド】は憮然とした表情を浮かべるが、
自分より年上であり、更に王族の教育を勤めている彼女には頭が上がらない。
「ならせめて《強制》だけでも…」
「全く、昔から頑固じゃのぉ。お主は少々頭が固すぎるわい」
なおも食い下がる【ジェイド】を尻目に、
シルフィアはアロウとローザ達を連れ、最後に謁見の間から立ち去った。


「…」
「そなたの気持ちも判らなくはない」
取り残された【ジェイド】に対し王は宥めるように言った。
「だが、“調停者”【ライブラ】の言葉を、
 そして同じような事を言った彼を、もう少し信じてみたらどうだ?」
賢者の学院の頂点に立つ者の名を出されたら、もう引き下がるしかない。
【ジェイド】は憮然とした表情を浮かべつつも傅くしかなかった。


シルフィアが案内したのは、昨夜訪れた場所。
ローザの部屋だった。
違う点は二つ。
茶卓にティーセットが一式並んでる事。
もう一つは、昨夜いなかった人がもう一人加わった事だ。
「君は…ローザ、いえ、ローザ姫の弟かな…いえ、ですか?」
「初めまして。レーヴェ・F・クルクローネ、十歳です」
戸惑うアロウを余所に、薄茶の髪の子供が丁寧にお辞儀した。
「肩の力を抜いて結構ですわ、アロースノウ様」
「左様。ここなら煩型(うるさがた)の声や目を気にせんでいいぞい」
椅子に腰掛けにこやかに微笑むローザに、
シルフィアも表情を和らげながら、アロウ達にも座るよう勧める。
「では、そのお言葉に甘えさせていただきます。
 それと、私の事はアロウと呼んで構いません」
「じゃあ私もローザと呼んで構いませんわ」
その間、老婆はティーポッドからそれぞれのカップに茶を注ぐ。
「この香りは…ローズティー?」
「ええ、私の好みですの」
「偶然ですね。私もです」
その言葉に、ローザとアロウは顔を見合わせ、思わず笑いあった。
「…僕はあまり好きじゃないなぁ」
「まぁまぁ、その為に焼き菓子も併せておるからの」
まだ子供っぽさの抜けない顔立ちのレーヴェは小声で嘆くが、
シルフィアはその頭を撫でた後、アロウの背後へ回り込む。
「ん?」
「安心しなされ。話の邪魔はせぬよ。ただ、例の症状に備えて…な」
「…感謝します」
アロウが一礼すると、ローザは笑みを絶やさぬまま言った。
「それじゃあお茶を一服した後聞かせてくれませんか?
 貴方の生い立ちを」
窓の外から見える、塔の一つにチラリと見た後で付け加えた。
「あまり長くは話せませんけど」
アロウは、茶を一口飲んだ後、コクリと頷き、目を伏せて語りだした。


自分はある魔術師の弟子として育てられた事。
それは辛かったが楽しくもあった日々だった。
しかし、それがある晩破られた事。
“満月の王”の存在と、その部下との戦い。
亡き師から教えられた、本当の自分の両親。


「-そしてこの国に流れ着いて今に至ります」
アロウは静かに瞼を開ける。
ローザの姿を目にして、あの“吸血衝動”が起こらないよう願いながら。
すると、ローザは椅子から立ち上がってアロウの手を取った。
「貴方は私と似たような感じですね。
 己の生まれを呪っている。そんな気が-」
「姫様!またその様な事を…?!」
シルフィアはローザの口癖を咎めかけた瞬間、
アロウの負の生命力が強まっていくのを察知した。
「静まれぃ!」
彼女はアロウの身体に触り、正の生命の精霊力を流し込んだ。
と、同時に、何か“特殊な感情”が彼の中に芽生えている事を感じ取った。

一方、アロウは両手を握られた瞬間、またあの“吸血衝動”が起こりかけたが、
シルフィアの手でそれは阻止された。
しかし、それでもアロウの顔は赤く、心臓は強く脈打ち続けている。
-何だろう?この感じ-
それが“恋に落ちた”事を、アロウは理解できずにいた。




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