ハロー!!  久しぶり　、元気してる　? 。
こないだはゴメンネ、ゆるして　ピョン　!! 。
仲直り記念にプレゼント送ったから　、
届いたらメールしてネ ! 。　　ウ～　
　
メールを読むと同時に玄関のベルがなり、小さな荷物が届いた。
サクラ色の包装紙にムラサキ色レースのリボン、
もちろん送り主はウ～からです。
リボンをほどきながら、サチコは、ウ～とのケンカの事を思い出した。
ウ～は、インターネットで知り合ったメール友達。
会った事はないけれど、今ではサチコにとって一番の親友です。
「ウ～ったら ! 」
包みを開けたとたん、サチコは思わず笑いだしました。
中身は小さな小さなグランドピアノでした。
「私が弾くにしては、チョット、小さすぎるんじゃない ? 」、
サチコは誰に言うともなく言いました。
もちろん、ウ～が目の前にいれば、ウ～に言ってやりたかったのですが。

サチコは十五歳、二年前学校からの帰り道で交通事故にあいました。
ケガは両手の複雑骨折、生活するには問題なく回復したものの。
繊細なピアノとなると思うように弾けませんでした、
神童とまで言われたサチコはそれからピアノを弾く事はありませんでした。
ピアノなら誰にも負けないと思っていただけに、
思うように弾けないピアノが嫌だったのです。
その事をうっかりメールに書いたのが失敗でした、
それからウ～がピアノを弾け、弾けってしつこいのです。
ピアノだってもうとっくに誰かにあげてしまったと言うのに。
それでとうとう、ケンカになってしまったと言う訳です。
それにしても、こんな悪戯するなんて。
「ウ～らしいと言えば、ウ～らしいわ」
ぷんぷん怒ってもいい所でしたが、
サチコはおかしくて笑わずにはいられませんでした。
そんな、ウ～が大好きだからです。

小さなピアノには、薔薇の香りのカードがついていました。

小さいわりには、食欲旺盛。
毎日かならず、
ピアノにメロディをあげる事。　　ウ～　

サチコはピアノをテーブルに乗せて、じっと眺めていました。
つやのない、濃い茶色のシックなピアノです。
アンティークな雰囲気で、新品にはない独特の匂いがします。
ケーキ皿にのるほど小さいくせに、鍵盤にはふただってついていて、
開けると金色の飾りの文字で　「Piano」　と書いてあります。
サチコは小さな鍵盤を、静かにたたいて見ました。
ポロン～♪　
ピアノは生意気ににも、まるで本物みたいな音をだしました。
それに鍵盤がとても重いのです、
それは、なつかしい本物の鍵盤の重さでした。
何だかとても変な気持ちになりました、
胸の中で何かがむくむくっと大きくなるような。
サチコはそんな気持ちを振り払うように立ち上がると、
自分の部屋の机の上に小さな小さなグランドピアノを飾りました。
ピアノのふたをそっとしめて、パソコンを開きます。
ちらり、サチコはピアノに目をやりました。
そして、ほこりをかぶったCDケースから、
好きだったピアノの曲集をとりだします。
「なっかしい曲を、聞きたくなっただけょ」、
サチコは誰に言うともなく、言いました、
もちろんウ～が目の前にいたらウ～に言ってやりたかったのですが。

かわいいピアノを、ありがとう　! 。
いっか、小人になったら弾かせてもらうわょ。
またメールしてネ。　　サチコ

メールを書き終えても、サチコはしばらくパソコンの画面を見ていました。
本当は久しぶりに聞くピアノの音に聞き入っていたのです、
自分でも気付かないうちに、ね。