うららちゃんは三か月前に我が家に来た人型万能ロボットである、
順調に動いている。
まだたいした仕事はしていないがとりあえず、
メールの送受信・FAX・留守電・テレビの録画のスケジュール管理を任せている。
この間は部屋の掃除をやらせてみた、
それらのやり方は月刊「ロボッツ」で毎週のように特集を組んでいる。
今月の特集は、
「ロボットは高機能モバイルだ !! 」
自分で使い始めて、なるほどと思った。
部屋に据え置き型の、
喋るモバイルの進化したようなものと言っててだろう。
しかも、歩く。
自分の足で勝手に歩く、あるいは人の後をついてくる。
でも、人の後をついてくるくせに、話しかけるといつもピクリとする。
「うららちゃん、なんかメール来てる ? 」
机に向かって座っていた僕がいきなりクルリと振り向いて話しかけると、
うららちゃんは椅子に座ったまま目をまん丸くして「メッ !! 」、
と言ってフリーズしそうになった。
「メメメメメメメるるるるるる・・・・・・・☤☤☤☤☤☣☣☣☣☣」
この最後の「☤☤☤☣☣☣」と言うのが始まると厄介である。
「おい、しっかりしろ。化けるな ! 深呼吸しろ」
「シシシンコ、シンコキュウとはなんですか」
こんな時でもうららちゃんは質問をする。
質問して、学習するようにプログラミングされているのだ。
「深呼吸とは生物に欠かせない酸素を大気から取り込んで、
体内で二酸化炭素に変えて繰り返し吐き出すことだ。
意識や体調を整えるためにそれを大きく深く、
意識的にやるのが深呼吸だ、真似してやって見ろ」
そぅ言って僕は、少し大袈裟な動作で深呼吸してみた。
は～、ふぅ～。
山登りの時のように大きく腕をひろげて、息を吸い吐き出す。
もちろんうららちゃんには呼吸器はないけど、
それをイメージしながら真似する姿はけなげだ。
天井に顔を向けて小さな胸を反らしている、やめろと言うまでやめない。
「単純な動作に意識を集中させることで混乱を静めるんだ。
どうだ、なんとなく落ち着いた気分にならないか ? 」
「な、なんとなくくくく、落ち着いた気分になったような気がします」
「よし、やめーーー。では、メール・チェック」
うららちゃんの頭の中でカタカタと音がして、
メールの受信件数と差出人とサブジェクトが読み上げられた。
何も言わないでいると、
うららちゃんがメールを読み上げてくれることになっている。
手紙を朗読してもらう気分は悪くない。
「OK では次、留守番電話は何か入ってないかい ? 」
「る、留守番電話には５件のメッセージが入っています、再生しますか」
「再生 !! 」
するとうららちゃんは、
ぽかんと空中を見つめパクリと口を開けて動作を止めた。
開かれた口の喉の奥の方からピー～～～～と言う音がして。
それに続いて人の声がする。
「もしもし、来週の商品搬入の件です・・・・」
これは仕事の連絡だ(男) 。
「商品デスプレィについてですけど～～」
これも仕事の連絡(女) 。
それから家のメンテナンス業者(男) ・高校の同級生(女) 、
そして最後は母だ。
「元気でやっているかい、たくさんのクリが出来たから送ったょ。
いつまでも一人じゃ大変だろう、早く・・・・・・」
うららちゃんの体を借りて、次々と色んな人が語りかけてくる。
まるで恐山のイタコみたいだ・・・・・・・・。