水干
- カテゴリ:30代以上
- 2018/05/15 20:21:19
悪友にツーリングに誘われ、お出かけ。
花弁は極楽から降ってくるものだから埋もれないように気をつけて、
歩きながら悪友の言葉に耳を傾けてた。
冗談めかして云いながら、彼は空を見上げた。
もう花弁はないとは思うのだけど、
何か作り話をしたいのか話し始めた。
曇っちゃったね、晴れてたのにさ。
キット花弁が天空を曇らせているんだょ。
何故か彼の声は遠くで聞こえる、
傍らを通り過ぎて行くゆく人たちの話声も遠くに聞こえた。
花弁はないけど緑に囲まれたこの林道、
風に運ばれて言葉が遠くに感じるのか。
不思議と空模様が変わりやすく、安定しない。
花弁って言うとさ、やっぱ桜だょね。
どうも桜って言うとさ、ひな祭りを連想するんだょ。
家にある雛人形には桜色の水干を着た笛方がいるんだょ。
へぇそうなんだ、彼は三人兄弟の一番下でうえ二人は姉である。
ひな祭りの時期によく姉と花葛を作って遊んだんだ、
花弁に糸を通して輪にして頭にのせて遊ぶんだょ。
駆けたり跳ねまわったりしているうちにどんどん落ちてさ。
気が付くとわずかな花弁が残っているだけ、
夕暮れには花弁を数えちゃいけないって祖母に言われた。
どうして ? 。
迷信らしいんだけど、縁起が悪いらしい。
彼はその意味は忘れたらしいけど、その話は覚えていたんだね。
話が終わったとたん、周りのザワザワが耳につきはじめた。
そう言えばさっきすれ違った人、
ずっと昔に遊んだことがあった女の子のような。
その子の家によばれて雛飾りを見た。
緋色の毛氈・雪洞にほんのりと燈が灯ったお座敷で、
菱餅や和三盆の砂糖菓子を食べた。
雛段には静かに微笑む親王様がいて、
囃子のいちばん端に淡く櫻を染めた水干姿の笛吹童子がいた。
名前も覚えてない女の子、その他大勢で呼ばれた私だから。
彼女は今どこで何をしているんだろう。
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- 秋コアラ
- 2018/05/16 05:39
- 柔らかな記憶、心許ない今^^。
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