Nicotto Town


ウイルス戦争 神は死んだ


シャーロックホームズ「ワトスン医師のその後」3


「ワーウルフだ!」
 私は思わず叫んでいた。他の二人は私の見解に不服なのか見合わせていた。
床の死人は人と同じ大きさの狼だった。
しかし骨格は妙に人間に近い。
「ワトスン、いつも君には言ってるだろう。よく観察しろと」
 私はホームズの言葉に従って死体をよく調べた。
「でもやっぱりこれはヌイグルミなんかじゃなく、本物のワーウルフだよ」
 相棒は頭を振った。
「違うよ、ワトスン。これは狼人間だ」
 レストレードはホームズの分析にも納得しなかった。
「何を言ってるんですか、お二人とも。これは狼男ですよ」
 三人の意見はまったく違っていた。そこで言い争っていると、ドアから子供の声がした。
「おじさん達、なにしてるの」
 振り返ると、五歳ぐらいの男の子が立っていた。
レストレードは声を荒げて追っ払おうとした。
「子供はあっちに言ってなさい。今、おじさん達は…」
 レストレードの言葉をホームズは遮った。
「待ちたまえ、警部。君はともかく、僕はおじさんじゃないよ」
 レストレードはホームズの意見を取り入れて、話した。
「今、お兄さん達はこの被害者をワーウルフか狼人間か狼男かと決めているところなんだから」
「どれでも同じだよ」
 何気ない子供の一言が三人の紳士を怒らせるのに、大した時間はかからなかった。
最初に銃を抜いたのはレストレードだった。
いつも銃を扱い慣れている分、早かった。
次にホームズが銃を抜き、最後に私が取り出した。
三挺の銃は正確に子供を撃った。
 読者の方は驚かれたかも知れないが、今まで私たちが捜査した事件の多くは、
犯人が事件解決と同時に死んでしまう場合が多かったのをご存じだろう。
調査を進めていけば素行の悪そうな人物と出会うことはいくらでもある。
そんな悪党がいきなり殴りかかってきたり、銃を撃ってきたことはよくあった。
その度に私たちは反撃を行い、この世の中の秩序を保ってきたのだ。
しかし悪党の死体はどうするか。
勘のいい読者ならお解りと思うが、犯人としてしたて上げるのである。
解決が困難な事件や、複数の仕事が重複したときなどはよくこの方法で事件を解決して
きた。
「さて、警部。それでは狼人間と男の子が殺された現場を調べますか」
 ホームズは現場をくま無く調べだした。
「ホームズ、子供の死体が外にあっちゃまずいんじゃないか」
 私の言葉に相棒はそっけなかった。
「いいから、ワトスン。子供の血で現場を汚されてはかなわんよ。
後で引きずって入れとけばいいよ」
 こうして奇怪な事件は更に謎を増したのだった。
どうしてワーウルフ(ホームズは狼人間と言っている)は男の子と殺されていたのか。
現場を調べる限り、窓とドアに鍵がかかっていたのだから、
やはり密室殺人だということになるのだろうか。
「ワトスン、狼人間の死因を調べてくれないか」
 ホームズはワーウルフの体を丹念に調べていたが、外傷は発見できなかったらしい。
私は被害者の体に触った。
まだ死体は暖かかった。と言うことは、殺されてからあまり時間が経っていないということか。
「うわっ!」
 思わず私はワーウルフから離れた。
「ホームズ、このワーウルフはまだ生きてるぞ。
どうやら通報した人がはやとちりしたんじゃ…」
 私の声に驚いたのか、ワーウルフはのそのそと起き出した。
「な、なんだウルフ。お前たち、何で俺の家に入りこんでいるんだウルフ。
さては泥棒かウルフ」
 轟音が部屋に轟いた。
レストレード警部がワーウルフの眉間を撃ち抜いていた。
茫然と見ている私に警部は説明した。
「ワトスンさん、安心して下さい。今撃ったのは銀製弾丸です。
通報があった時から、用心に持ってきておいたのです。狼男は完全に死にました」
「いや、しかしこれでは殺人事件そのものが無かったのでは」
 私の問いにホームズは涼しげに答えた。
「いいんだよ、ワトスン。
第一これが殺人事件じゃなかったとしたら、どうして入口付近に子供の死体があるんだ」
「さすがホームズさん。名推理です」
 一体何が名推理なのかと、私は目まいがしたが椅子もないので、子供の死体の上に座って休むことにした。
ホームズはワーウルフの死因をいま一度、調べた。
「うむ、どうやら狼人間は銀の弾丸で眉間を撃たれて死んでいるな。
おそらくこれが死因だろう。
死体がまだ暖かいから、死んで間もない。
犯人は狼人間の弱点をよく知っているな。
子供のほうは普通の弾丸で死んでいる。
と、すれば人間の子供が普通の弾丸に弱いことを知っている者が殺したんだろうな。
まあ、同一犯と見て間違いないだろうが」
 ホームズの推理をレストレード警部はメモにとっていった。
「ホームズさん、助かりましたよ。これで大分犯人像が絞れました」
 一通りの調査が済むと、私は子供の死体を家に運び込んだ。
「お二人ともよく、捜査に協力していただきましてありがとうございます」
 レストレードは気を利かせて辻馬車を呼んで運賃も前もって払ってくれた。
どうもすっきりしない事件だったと、私は考え込んでいたが帰る場所もないので、
しばらくホームズのサセックスの丘陵地帯にある家に泊めてもらうことにした。
数日後に買った新聞に、レストレード警部が事件解決と載っていた。
「何々…。狼男と男の子の殺人事件は密室で行われたように見えたが、
犯人は窓から二人を拳銃で撃った模様。
これは警部の綿密な調査で分かったことであるが、なんと窓が割られていたのだ。
犯人はそこから被害者を射殺したと断定。
聞き込みの末、通報者のフランク・ジョンソン32歳が被害者両名と顔見知りという
共通点から重要参考人として取り調べを行った。
結果、自供したため逮捕した。
レストレード警部は容疑者の指を一本づつ切断するという方法で取り調べを行い、自供にこぎつけた」
 私が記事を読み上げると、ホームズは空を眺めつつ言った。
「そう言えば、帰り際に警部が窓を壊していたな…」
「あっ、そうだホームズ。悪いがこの金を払ってくれないか」
 私はハドスン夫人に弁償させられた部屋の修理費の明細を見せた。
彼は急に気難しい顔をして暖炉の前に立った。
「ワトスン、今回の事件でもレストレード警部は致命的な間違いを犯したようだよ」
「え それはどういうことだい」
 ホームズはポケットから婦人物の手袋を出した。
「これは狼人間の家に落ちていたものだが、君も見覚えがあるだろう」
「うん。それはハドスン婦人の物だね」
 ホームズはパイプを吸った。
「つまりフランク・ジョンソンはハドスン婦人と共謀して狼人間と子供を射殺したんだ」
 壮大にして華麗な推理だった。
「よし、ワトスン。今から古巣のベーカー街にハドスン婦人を捕まえに行くぞ。
おそらく彼女の部屋の中に拳銃と銀製の弾丸が隠してあるはずだ」
 私は出かける準備をしつつ言った。
「でもその前にロンドン警視庁のレストレード警部にあって拳銃と銀製の弾丸を借りなきゃならないね」

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2013/11/20 06:00
日本の警察でも捏造した証拠が裁判中に紛失するというのは日常茶飯事です。
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2013/11/19 22:54
今の日本の警察がやってることとおんなじみたい
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2013/11/17 04:42
ホームズ物は常にワトスンの視点から物語が描かれる、という制限がありました。
しかしそれだけでは物語を進められず時々、神の視点で描かれる事もあったような。
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2013/11/16 22:56
ひどいっww
犯行も密室ならば 取り調べも密室だね ><
鈴木宗男さんが怒るだろうな〜ww
それに 死人にくちなし ><

エンディング曲が聞こえて来たような気がしましたww

♪ い〜までは指輪も〜 ま〜わるほど〜♪



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