Nicotto Town


ガラクタ煎兵衛かく語りき


RUSSIAN SUMMER  №4




 第1部


 2021年11月、プーチン帝王は温暖な気候の地中海に面した、ロシア第3宮殿の
地下に建設された2重シェルターの中の、豪奢な居間で寛いでいた。
すべては順調だった。文字通りほぼすべての覇権を手中にしていたからだ。
もはや地球上には、一つの帝国と、一つの連邦しか存在しない状態だった。
ロシア大帝国と、アメリカ連邦の間に最早対立は存在していなかった。

 ユーラシア(含ヨーロッパ)と全アフリカを完全に支配しているロシア大帝国。

 弱体化した北南米内に新たに再建された国々によるアメリカ連邦。


 オーストラリアを含むオセアニアは、大帝国による核弾頭攻撃により
全て焦土と化していた。あと半世紀はどんな生物も棲めないだろう。


 第3宮殿は過去に存在していたイタリアという国の沿岸に建設された。
オーストラリア攻撃の際、世界中の海洋水が核汚染されたため、
ここ地中海の海水から高濃度の放射能が今でも観測されているが、
今や人類の利用する水は水素発電によって生じる水によって賄われているので、
宮殿の場所の設置理由は、その風光明媚さでもなく、水利でもなく、
ただ単に気候が温暖だからだった。モスクワは寒かったのだ。


 アメリカ連邦はもはや烏合の衆、かってのアメリカ合衆国やカナダも分裂に
分裂を重ね(一番最初に分裂したのはアメリカの北部と南部だった)、数こそ
25から30はあれど、それらの間に協調は存在していなかった。

 かっての日本という国にはあえて触れません。

 幾数十ものフィルターを経て、宮殿の地下には安全な空気が流れていた。
海産物を食すという習慣、文化は完全に消え果てていた。
疑似太陽光から生産される大豆のおかげで、畜産の必要性も無くなった。


 プーチン帝王の食事に供される代替肉の原料となる大豆は、
もちろん地下のグリーンコンディションで栽培されているものであり、
平均寿命が年々下がっている地上民は、汚染の疑いがある地上の産物を
食べ続けるしかなかった。


 食事の後、正教の祈りを神と今は亡き父と母と兄に捧げ、
プーチン帝王はズナメニ聖歌の鳴り響く回廊を抜け、寝室へと向かった。
最近、よく夢を見る。いや、それはもしかしたら夢じゃないかもしれない。
世界の頂点に立ってしばらく経つ。もう何も悩むことはない。
悩みなく眠りに落ちるその瞬間、いつものことだが、目前に扉が現れる。
その扉を開けたらどこに行けるのか、時折り夢の中で戸惑う。
でもまだ開けたことはない。



 国連などという不義理なものはとっくに存在していない。
世界は私のものだ。私の言いなりだ。目が覚めたら再び栄光の日々が繰り返される。
結局こうなるように、神の祝福を得て私はこの世にもたらされたのだ。


 (神に感謝します)
 (父に感謝します)
 (母に感謝します)
 (兄に感謝します)


 いつものように眠りにつき
 いつものように扉が現れ
 いつものように戸惑う
 



 『開けてみようかな』


第1部終了





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