Nicotto Town


ガラクタ煎兵衛かく語りき


西園寺公子 最悪のデビュー





「初めまして 本日は突然御足労をお願いして申し訳ありませんでした
当社の担当が急に急性悪性水虫炎で緊急入院してしまい
彼が復帰するまで私 西園寺公子が御社との この重要なプロジェクトを
進める 成熟と成就のお橋渡しのささやかな繋ぎ役になれたらと思っております」


相手は腹を抱えてテーブルの向こうで笑っていた それも涙を流して
更には右手でテーブルを叩いて
「西園寺さん 俺 覚えていない?」

書類から初めて目を挙げた なにしろ緊急事態だったので 朝出勤してから
いきなり上司に呼ばれて 西新宿のとある喫茶店への不可解な出向を
命じられたのだから すぐに反応できなかった

もちろんこのプロジェクトはこれまでも裏方で支えてきていた
大抵のことには即応できる
だけど何だ? この無礼極まる反応は?

あれ? 覚えていない? いやマジで 俺のこと
二ヤつきながら






問答無用で喫茶店のテーブルを引っ繰り返した
それも相手に向かって

こればっかりはしょうがない 条件反射に近い
誰に似たかといえば そんなご先祖がいらっしゃったと聞いたことがある

まあ昔仲良しだった(らしい)幼馴染の顔を忘れるほど
ウツケな私も私だが


彼はコーヒーやら砂糖やらテーブル上のすべてを浴びせられ
顔や体中ビショビショにしながら それでもまだ大笑いしていた

そうだったw いや 俺が悪かったw 俺が悪かったよw
いや 嬉しくてさ こんな感じでまた逢えたんでさ
ついつい ん このこと忘れてたよ ゴメンなw









後日 商談は結果的に最大限で成立した

水虫が治って 松葉杖をついて出社した先輩が真っ先に 私の部所に逢いに来た
「よくあれをまとめてくれたな ありがとう!」

私は机上の書類から一切視線を離さず 表情一つ変えず簡潔に答えた
「日常業務ですから」
先輩は満足そうに笑みを浮かべて自らの部所に帰ろうとしたが
ふと思いついたように突然振り返った
「今度の週末に正式調印があるんだけど 君も同席してくれるかな?」



また机を引っ繰り返しそうになった
寸前で彼の笑顔(大笑い)が脳裏に浮かんだ


いや 俺が悪かったw』 ウツケな私を責めるどころか
結果的に対等な立場の相手に対し 最大条件で商談が成立した

彼は一体誰だったんだろう? ウツケな私にはいまだに思い出せないでいる
その答えを探すべきだろうか? あの時以来その辺の思考は閉鎖している
しかたない

書類から目を挙げて 真っすぐに答えた
「ご一緒させていただきます」

その夜は眠れなかった
ベッドを引っ繰り返しそうになった

(続きません)





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