Nicotto Town


ガラクタ煎兵衛かく語りき


歌志内市 炭鉱住宅の片隅で


ある晴れた日に爺ちゃんが家の前の畑を耕している
その跡を見ると極太の線状生物が土中に蠢いていた
六歳の僕はワクワクした
家に帰って持ってきたのは紙箱の蓋(多分千秋庵の)


土の中でピクピクうねっている生物体を捕えては
なんの躊躇もなくその蓋内に収集していった


数か月後にはそれを「ミミズ」と学び
10年後にはそれを分類学上で環形動物と学ぶ
夏真っ盛りの頃の僕の幼年期


畑にはトウモロコシ トマト 鞘豌豆 人参 大根
畑の奥には鶏小屋
(後で姉から聞いたがその数年前には山羊もいたそうな)
(三人の姉は山羊の乳もその成長に役立っていたそうな)


鶏小屋には2種のニワトリが飼われていた
白色レグホンとゼブラ色のプリマスロックである
レグホンの卵の殻は白く
プリマスロックの卵の殻は茶色だ


爺ちゃんは時折市外に赴き数枚の大ぶりな貝殻を買ってきた
僕は幼少だったのでそれがなんという種類の貝だったかは知らない
爺ちゃんはそれを削り鶏の飼料に混ぜていた
後年それが卵の殻の生成に有用だと知った
21世紀現在の鶏卵業者さんはどうしているのだろう



或る日悪戯心で爺ちゃんを鶏小屋に閉じ込めた記憶がある
爺ちゃんが小屋の中に入り給餌している最中に
本来ニワトリが外に出ていかないように設置された小屋の鍵を僕は外から閉めたのだ
息を吐きながら僕は家に逃げ戻った
僕は何もしていない僕は何もしていない(悪童)
実はその後の記憶は残っていない
多分なんの問題もなく爺ちゃんは帰還したんだと思う




あの他愛もない悪戯を爺ちゃんが喜んでくれたらサイコーだったなあ



その3年前まで夜中に喘息の発作を起こした僕を背負って病院までの坂道を
韋駄天並みの力強さで駆け下りていった爺ちゃんの背中
苦しい
息が苦しい
でも周りから全力で守られているという安心感のおかげで
僕は爺ちゃんの背中に貼りつきながら
(今はもう覚えていない)爺ちゃんの匂いを感じながら
現時点での呼吸をいまだに続けていれる




夏真っ盛りの頃の僕の幼年期の夕方
耕した畑の隅に忘れ去られた紙製の蓋
豊穣な土地の証しであるミミズ達は
一人の悪童によって炎天の地表に晒され
逃げることもできなくただ紙面に茶色の染みを遺し
微かな土くれと化していた



翌年爺ちゃんは旅立ったのだけど
感謝が言える年齢じゃなかったです
顔に馴染みのある親戚たちが大勢集まった葬式で
僕は元気に駆け回っていたそうな




だから今言います
爺ちゃん
ありがと

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2020/06/30 23:09
いいじいちゃんだったんだね





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