Nicotto Town


ガラクタ煎兵衛かく語りき


NIPPON RISE


第四章
ISLANDS



 時代は未だ日本列島がユーラシア大陸と一体化していた頃に遡る
 その時太平洋プレートはユーラシア大陸の下に潜り込もうとしていた
 ユーラシア大陸の河川からと波打ち際に運ばれた土砂群は
 実は遊離しようとしていた
 時を経てプレートの潜り込みに耐えられなかったユーラシアは次第に
 東端の土砂群を手放すより仕方なかった



 二つの土砂群が(それらは位置は近かったがそもそも別個のものだった)
 ほぼ同時期に大陸から離れ始め大陸との間に海水の侵入を許した
 (海水は日本湖、その後には日本海と称されることになる)
 東の群れは北米プレートの干渉により時計でいう逆回りで移動し
 西の群れはフィリピン海プレートの圧力により時計回りで
 その矛先を太平洋に向けていた
 弓の形を創るために
 


 北からの北米プレートと、南からのフィリピン海プレートの圧力により
 二つの土砂群は合体し、その中央で様々な褶曲山脈が形成された
 その結果は(日本における)アルプス山脈や飛騨山脈を産んだ。
 そして世界でも稀有な(著名な地質学者が複数日本に訪れていた)
 弧状列島が誕生した。後に、東と西の接点(というか地帯)は大地溝帯
 (フォッサマグナ)と呼ばれ、今でも地質学者の格好の研究材料となっている

 (中央構造線はまた別の話になる)




 問題はいつ巨大鯰が日本海の海底に潜んだのかだ
 箭兵衛も龍一も女神もそこを考慮していた
 そもそもこいつは何者なんだ
 なんでよりによって鯰(の形態)なんだ!


 ここ数時間の間にも、この怪物は刺激性の強い分泌物を髭の先端に携えて
 西日本のいずれかの四か所を攻撃すべく、地表に向かって蠢いていた
 


 ノーチャンスの女神はもはや猶予の時間はないと判断し
 箭兵衛と龍一に普段は使うことを許されていない手段で
 直接二人(一人と一匹?)にメッセージを送った
 「どうするおつもり?」
 


 龍一は待っていたかのように即答した
 「まあ見てなよ」
 龍の髭は笑っているように見えた
 自分の命と引き換えにこんな邪悪な存在を消せるなら
 それ以上に望むことはない
 その為にここまで生きてきたんだ
 父さん、爺さん、叔父さん、俺を誉めろよ


 シリカ石テラスで、直接敵の攻撃を受けない位置にいるはずの
 女神は心底このドラゴンを嫌った

 「それでは見せて頂戴な」
 唇を噛みながら冷たく言い放った



 サーチした結果、近くには役に立ちそうなエーテル体はいない
 あとは私が飛び込むか、鯰と二人(一人と一匹?)の惨状を見届けるか
 どちらしかない
 



 その時鯰が、地底の鯰が大爆発した
 全地球上での震度計の針がMAXに振りきれた
 世界中のプレートが部分的に、いやかなり致命的な損傷を負った
 



 その結果、日本列島が乗っている北米プレートとユーラシアプレートは
 完全に分離した。フォッサマグナは柔軟に二つの島を繋ぐ役目を果たした
 火成岩ではなく、堆積岩の集合体という素因が大きかったと思われる
 そして余りにも鯰の破壊力が大きかった為
 プレートとプレートの間の反発力はある意味奇跡を起こした
 


 数日後、日本列島は太平洋のど真ん中に聳え立っていた
 そしてその地上面積は六大陸の中で四番目になっていた
 そして次第に地質的にも安定し始めた
 もちろん(先述したように)国民の生命の95%を失っていたが
 他の国も同じような情勢だった
 
 興味深いことに、その新大陸の中心にかっての富士山が残存していた
 山頂の少し西の部分は一部損壊していたが
 その場所の下の海嶺とのジョイントがなされたのかもしれない
 その時点で地球上での最高峰の存在となった

 もはや元の形では各自治体はありえなく、新たな社会形成が
 生き残った人々の中で行われ始めていた
 北海道も沖縄も竹島も尖閣もこの一つの大陸に組み込まれた



 箭兵衛は見慣れぬ海岸風景を虚しい感情で見ていた
 いったいあれは何だったのだろう?
 鯰とは何だったのだろう?
 すぐ南にはオーストラリア
 すぐ東にはカリフォルニアかメキシコか
 どうして自分は生き残ったのだろうか?
 女神はどこに消え去ったのだろう?
 そして
 僕は今何を求めているんだろう?



 突然のダミ声
 「HEI!YOO!」

 箭兵衛の目の前で翼を広げながら精悍なドラゴンが奇妙なダンスをしていた 
 「いやあ、すまんな、結構あいつに手間取ったんよ」



 箭兵衛は砂浜に手をついて何かを言おうとしていた
 体は震えていた


 「HEI!箭ちゃん、またジンギスカンで玉葱食わせてくれや!
   何だっけ?札幌黄?あれめっちゃうまかったで!」 


 大阪出身のドラゴンかよ、と突っ込みを入れようとして
 箭兵衛は大陸の海岸沿いで大号泣した
 その泣き声から事態は別のフレーズに入った
 ノーチャンスの女神もそれを遠隔で聴いていた
 

 定位置のテラスで寛ぎながら、そろそろ成果を得ようと考え始めた頃で
 思わず本音が漏れた
「あんたは生き延び過ぎたわ、でも次はあかんやろ、
  次の目はないで」


 大阪出身の女神かよ、と突っ込みを入れるべき箭兵衛はまだ泣いていた
 ドラゴンは翼でホバリングしながら、鯰の正体を思い返していた
 『あいつは生き物じゃなかった、それじゃ何者だったのか?』
 空へ戻る前の巡礼でその回答を祖先から得られるのだろうか?


 ルーティンのルートは以前と変わらざるを得なかった
 美術館の大半は全壊していて、場所も大きく移動していた
 ドラゴンは器用に祖先の遺品を回収し、再びヴァンアレン帯へと翼を向けた




ひとまず終了?

NIPPON RISE  
       -完-





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